請求(請求書)には期限があります。この期限のことを「時効」といいます。
2020年4月に民法が改正され、請求忘れの時効が原則「5年」となりました。それを過ぎてしまうと時効が成立し売掛金や未収金は回収することができなくなってしまいます。
つまり「消滅時効が5年」となったわけです。時効が5年も消滅時効が5年も同じ意味のことです。
ちなみに請求することを忘れてしまうことを「請求忘れ」や「請求漏れ」といいます。
目次
請求する行為には時効が存在する
せっかく仕事をしても、取引先に請求するのを忘れてしまったことにより売上げが入金されないということは、会社として起こしたくない致命的なミスです。
請求漏れに早い段階で気づいておけば大きな問題にはなりにくいのですが、もし長期間忘れている場合には注意が必要です。なぜなら請求すること自体に時効があるためです。
しかし時効の成立さえしなければ、取引の発生から数ヶ月が経過していたとしても、請求漏れに気付いたタイミングから行動すれば売上(売掛金・未収金)を回収することができます。
そのため確定申告や決算処理の段階で請求忘れに気づくことができれば、回収を諦める必要はありません。しかし時効を迎えてしまっている場合には、請求をしたとしても回収することができません。
万が一時効を迎えてしまっていたとしても、取引先と交渉できるのであればした方がよいだろう。
請求忘れや請求漏れの時効は5年
2020年4月に民法のルールが変更になり、消滅時効が5年と変更になりました。
その前まで業種によって消滅時効の長さが異なり1年〜3年、そして5年といった具合で短期消滅時効というものが存在していたのですが、現在では一律5年ということになりました。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
参照 消滅時効(外部サイト)
改正されてあまり時間がたっていないため、多くのサイトでは「請求の時効は2年」とか記載しているケースもいまだに見受けられますが、2020年4月以降からは「5年」となっています。
あまり難しく考える必要はなく、請求漏れの消滅時効は5年ということを覚えておけばよいでしょう。
中には、時効の存在を知っていて、何度も請求しないとなかなか支払ってくれない会社もあるから注意が必要だ。
請求書を出し忘れても代金を受け取る権利はある 請求漏れの支払い拒否はナシ
請求書を出し忘れても代金を受け取る権利はあります。
請求忘れや請求漏れの時効は5年とお話ししましたが、つまりは5年以内であれば請求書を売掛先に出していなかったとしても、売掛金を受け取る権利はあると言うことです。
また下請代金支払遅延等防止法には60日ルールというものがあります。基本的には商品を受け取ってから60日以内に、商品代金を支払わなければならないといった決まりです。これはどのような場合においても言えることです。
つまり「請求書を出し忘れたから売掛金が支払われない」や「請求書を受け取っていないから支払わない」ということは下請法違反に該当してしまうのです。
この辺りを支払いを受ける側も支払いをする側も、覚えておくとよいでしょう。
売掛金・未収金を回収する権利が消滅する前に請求書を作成し送る
売掛金・未収金を請求する権利があるにもかかわらず、請求書の発行そのものを忘れていたり、請求書は発行したものの取引先に渡していない、届いていないといったトラブルが起こる場合があります。
取引の発生から一定期間が過ぎてしまうと、民法による「消滅時効」が適用されてしまいます。そのため請求そのものができなくなってしまうのです。
そこでまず確認したいことは、請求書を発行したかどうかの確認と、取引先に送ったかどうかの確認です。つまりこちら側に不備がなかったかどうかを今一度確認するのです。
- 請求書を発行しても取引先に送っていない
- 送った請求書を取引先が受け取っていない
- そもそも請求書を発行していない
- 請求書に不備があった
取引先から代金を支払ってもらうためには、商品やサービスを納品するだけではなく、その後の請求書の発行し送付するところまでが必要となります。黙っていても支払ってはくれません。
また、請求書を発行したとしても取引先が受け取っていなければ請求書を発行していないことと同じ状態になってしまうのです。
そのためまずはこちら側の請求書の手順を見直すことで、どのタイミングで請求忘れや請求漏れになっているのかが分かることがあります。自分のミスなのか相手のミスなのかをまず明らかにするところから始めると良いでしょう。
意図的に請求されたことを無視している可能性も・・・
取引先によっては、請求書が届いているのを知りながら、意図的に時効が来るのを待っているといったこともあります。
本来はそのような疑いをかけたくはないところですが、時効がある以上、そのような可能性も考える必要があります。そもそも支払期日になっても支払いがされないこと自体おかしなことなのです。
そのためにもまずは自社で請求についてのミスがないのか、正しく請求出来ていたのか、取引先は確実に請求書を受け取っているのかという点をチェックするところから始めましょう。
もし自社に何の落ち度もなく相手方に間違いなく請求書が届いているのにもかかわらず、代金の支払いをされていないということであれば、それ相応の対応を取らざるをえません。また今後その取引先との付き合いを真剣に考えた方がよいでしょう。
なので自社のミスがなかったことをまず確認し、関連する情報を時系列で用意した上で、相手先に連絡をした方が良いだろう。
請求漏れで支払い拒否はおかしな話
請求漏れをしてしまっている状態で、取引先に売掛金の支払いを拒否された経験を持つ事業者もいるかもしれませんが、これはおかしな話です。
もし時効を迎えてしまっている状態であれば話はわかるのですが、そうではない場合には、取引先に支払いを拒否する権利はありません。
請求忘れの時効を更新することは可能 請求書の時効期間を更新する方法
時効の期間は決められているのですが、時効期間を更新することが可能なのです。
ちなみにですが、「更新」という言葉に違和感を覚える人もいるかもしれません。民法が改正され消滅時効の年数が変更されたのに伴い、使われる言葉も変更されました。
今まで「時効の中断」と表現していたものは「時効の更新」となりました。そして「時効の停止」と表現していたものは「時効の完成猶予」となりました。
- 時効の中断 ⇒ 時効の更新
- 時効の停止 ⇒ 時効の完成猶予
行動することで時効を伸ばしたり止めたりすることができる
何の対応もしなければ時効までの時間をただ消費してしまうだけですが、時効を更新する対応を取ることで、時効を迎える期日を伸ばすことができるのです。
ただし時効更新の手続きは、時効経過を完全にストップさせるものではなく、一時的なものとなります。
時効期間の更新をする場合には、まず取引先と話し合うことが重要です。取引先が請求に応じない場合は、弁護士など法律的な知識のある外部機関と一緒に、時効更新手続きとそれ以降の回収方法について方針を決めておきましょう。
参照 弁護士に売掛金の回収を依頼したい!弁護士に債権回収を依頼するときに必要な書類や依頼手順
時効の更新措置で一般的な方法は次の5つです。
時効を更新できる「請求訴訟」とは裁判を行なうこと
時効中断における「請求訴訟」とは、取引先に対して裁判を起こして請求を行なうことです。
請求訴訟を行なう場合は、弁護士や債権回収代行業者に依頼した方が素早く対処できます。ただし外部の業者に依頼をするため、依頼手数料はどうしても必要となってきます。
請求訴訟を行なう場合の一番のネックは、請求してから代金が回収できるまでに時間を要してしまうことです。時効成立までのタイムリミットは法的手続きを踏まない限り止められません。
法的な請求の準備をする時間もないほど時効が迫っているような非常事態には「勧告」という手段を取ることができます。「勧告」とは「公的な意見・進言」のようなものです。法的拘束力はないものの、公的機関からの意見は重要なものとなります。
売上金回収にともなう「勧告」の方法
勧告には主に次の2つの方法があります。
- 支払いを催促する
- 支払い督促の文書を送る
勧告を行うと、行ったタイミングから6ヶ月間の時効成立猶予期間が与えられます。つまり6ヶ月間、時効を止めておくことができるのです。
ただし勧告という手段を選んだ場合には以下の3つを気を付けなければなりません。
- 勧告から6ヶ月以内に法律上の手続きでの請求行為を行なう
- 勧告で猶予期間がもらえるのは一度だけ
- 勧告を行なった証拠が必要
勧告での猶予期間は、時効を6ヶ月間止めておけるだけの停止措置でしかありません。
法的な回収を行なうための準備をするための措置です。6ヶ月以内に請求訴訟などを行なわなければ、ムダな時間になってしまうのです。
勧告をして猶予期間がもらえるのは1度だけです。6ヶ月間の間に再度勧告をし、さらに6ヶ月の猶予が追加されるわけではありません。
さらに勧告の証拠を残すためには、内容証明郵便を利用しましょう。内容証明郵便は、法的手段を取る場合に証拠書類になる特別な郵便です。内容証明郵便による勧告文書は、後に裁判上での手続きに必要になるため、債権の内容や発生時期、金額や支払い期限までを細かく残しておく必要があります。
参照 内容証明郵便での売掛金回収は有効な方法!内容証明には決まった文章形式がある
時効を更新できる「支払督促」とは裁判所書記官による簡易的な書類命令のこと
支払督促とは、裁判所の書記官が行なう「文書による命令」のことです。
裁判を起こすよりも比較的簡単に利用できる手続きです。ただし支払督促を行なうためには審査に通過しなければなりません。
支払いの証拠となる書類などを揃えているかといった基本的な審査から、自社で文書などを使って請求行為をしたかなどを見られます。文書を使って請求を行なう場合は、勧告と同じように、内容証明郵便を利用しましょう。
民事調停で取引先と交渉できる
民事調停は、自分と取引先で和解交渉を行なう場です。裁判ではありません。
裁判所が選んだ調停委員と裁判官が第三者として和解交渉に参加します。
民事調停で決められた内容が守られなければ、差し押さえや仮処分などの法的執行が可能になります。差し押さえ・仮処分は裁判によって取引先の資産を差し押さえることです。すでに民事調停において必要書類の提出などがされているため、訴訟を起こしたとしても、スムーズに手続きが進みます。
時効を更新できる「債務の承認」とは取引先が債務であると認めること
「債務の承認」とは、債務があることを取引先が認める行為のことです。
つまり支払いをしていない取引先が「わたしは支払わなければならない代金を支払っていません」と認めることです。
- 支払い猶予をお願いされる
- 債務があることを認める文書がある
この債務の承認とは、取引先が売掛金や未収金の支払い意思を見せるための具体的な行動を起こすことです。自分だけが時効更新について動くのではなく、取引先からの行動でも更新は可能であることも覚えておきましょう。
承認を得る場合には必ず証拠を残しておかなければなりません。電話や対面での会話ではなく、文書やメールといった記録が残る方法でやり取りをすることをおススメします。
「代金の一部支払い」も「債務の承認」と見なされる
取引先から代金の一部でも入金されると、その時点で時効の経過がリセットされます。
代金を支払うことで、先ほどの債務の承認と同じ意味になるからです。
請求漏れの売掛金を回収する方法
請求漏れをしてしまった売掛金を回収する方法はいくつか考えられます。
- 自社で回収作業を行う(催促・内容証明・督促・催告・仮差押え)
- 債権回収代行業者に依頼する
- 裁判を行う
- 債権を売却する(ファクタリング)
まず前提として、請求漏れに気づいた段階で請求書を送るようにはしましょう。これで「請求書を送った」という事実は残ります。
ただし何年も昔の請求漏れに関する請求書を送った場合、仕事内容や経過している年数によっては時効が成立してしまっている可能性もあります。
請求が遅れてしまい支払ってくれないとき
請求漏れをしてしまい請求書を送れながらも送ったのにもかかわらず、取引先が売掛金の支払いに応じてくれない場合には、さまざまな回収方法があります。
基本は自社で回収することです。
それでも対応してくれない場合には、代理人にお願いするか、裁判を行うという方法となるでしょう。
また考え方を変え、売掛金をもらえる権利自体を売却してしまうという方法もあります。
いずれにしても、時効前の債権であれば何かしらの方法で手を打つことは可能となってきます。
民法改正前には業種によって時効の期間が異なっていた
民法改正前の話ですが、売掛金や未収金の時効は業種によって異なっていました。
請求できる権利を失い時効を迎えてしまうことを消滅時効と言います。そして消滅時効は業種によって期間が異なっており、。最短で6ヶ月、最長で10年といった開きがあります。
以下に、業種別の消滅時効期間を一覧でまとめました。
消滅時効期間 | 業種 |
---|---|
1年 |
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2年 |
|
3年 |
|
5年 |
|
消滅時効のカウントがいつからスタートするのかについても覚えておきましょう。
たとえば、消滅時効が3年だった取引の場合は、時効へのカウントがスタートするのは契約書に記載された支払い期日の翌日からです。
よって、時効が成立するのはちょうど3年後の支払期日となります。
時効のカウントがスタートするのは、契約している仕事を完了した日でも、請求書を送った日でもありません。たとえ支払いを求めて何度も請求書を送っていたとしても、時効へのカウントがリセットされるわけではありません。
翌日に時効期日がくる請求書に気づいて、急いで取引先に送ったとしても、時効期日に間に合わない可能性が高いです。だからこそ、請求忘れに気付いたら素早い行動が必要なのです。
2020年4月民法改正で変わる時効の定義
2020年4月1日から民法が改正され「時効の定義」が変わりました。
改正前までの定義では、時効の更新について一時的なものであるという解釈でした。ところが民法改正後の定義では、職業別の消滅時効期間が撤廃され、シンプルで寛容的なものになります。
- 請求する権利があると知った時から5年
- 請求する権利が行使できる時から10年
※いずれか早く到達するほう
時効のカウント開始は、権利を行使できると知った日からになります。つまり、契約書で支払い期限を確認した日がスタートになるため、実質的に改正前と変わりません。
しかし消滅時効の考え方が統一されることで、多種多様な事業を行っている会社にとってはメリットになりますし、債権管理がしやすくなることで請求忘れも回避できます。
通常、契約書を交わした時点で請求する権利があると知ります。ほとんどの商売で発生する消滅時効は5年でカウントされます。
10年という時効期間は、請求できる可能性がある期間を表していると考えるとわかりやすいです。つまり、10年という時効期間があるのは、通常の請求だけでなく過払いや分割での未払いが発覚した時に動けるようにするためなのです。
6ヶ月や1年など、短期間の時効成立で請求する権利が失われることを避けるため、そして請求期間が長期化されないようにするために時効制度が改正されるのです。
まとめ 請求書には時効あり 適切な対応を!
内容をまとめますと請求書には時効があります。そのため適切な対応を取らないと時効を迎えてしまい、本来受け取れるはずの売掛金を受け取れなくなってしまいます。
そして時効自体は止めたり伸ばしたりすることができます。そこで必要となってくるのは「時効更新措置で一般的な5つの方法」です。
請求の時効に関しては2020年4月1日にルールが変更されたため、それ以降の情報を参考にするようにしてください。
よくある質問
請求書には時効がありますか?
請求書には時効があります。「5年」です。
そのため、請求書を発行してから5年以内に、売掛金や未収金は回収するようにしましょう。
時効の期間を伸ばすことはできるのですか?
時効の期間を伸ばすことは可能です。
売掛金や未収金を支払ってくれない場合、どうしたら良いですか?
単純に支払いを忘れられているケースであれば大きな問題ではないのですが、相手が売掛金や未収金を支払う気がない場合には弁護士や、債権回収のスペシャリストである「サービサー」に依頼をするという方法もあります。