資金調達に役立つのが工事請負代金債権です。

工事請負代金債権とは、工事を請け負った事業者が、工事完成の対価として報酬を得る権利のことです。報酬を得る権利、つまり「売掛債権」を活用することで資金調達が可能になります。

たとえ工事が完成しなくても、工事請負代金債権は発生します。なぜなら、工事を請け負った時点で工事代金をもらう権利だからです。下請け業者であれば「ファクタリング」や「手形割引」「債権担保融資」あたりを利用することで資金調達が可能になるでしょう。

それでは、具体的にどのように工事請負代金債権を活用すればよいのかお話ししていきます。

工事請負代金債権は「元請け」と「下請け」に分かれる

工事請負代金債権は、工事を依頼された事業者が注文者から、工事完成の対価として報酬が受け取れる権利です。

工事請負代金債権は一般的な売掛債権とは少し異なるため、元請けと下請けで分けて考えるとわかりやすくなるでしょう。

たとえば、請負契約が「元請け」なのか「下請け」なのかで資金調達方法も変わってきます。どちらの立場で請負契約をするのか、元請けと下請けの定義も確認しながらお話ししていきたいと思います。

仕事完成義務が生じる元請け=請負人

まず、元請けと定義されるのは、注文者から工事の依頼をされた事業者である「請負人」です。請負人は仕事を引き受けた段階で「仕事完成義務」が生じます。

請け負った仕事の着手時期や工期は契約内容によって決まり、仕事完成義務を果たすことで報酬が支払われます。よって、請負債権は工事が完成するまで自由に活用できないのがポイントです。資金調達には活用できないことを覚えておきましょう。

また、請負人は自分で工事を完成させても、他の事業者に仕事を依頼しても構いません。請負人が他の事業者に仕事を依頼した場合は「下請負契約」という形になります。

請負人が仕事に着手しなかったり、完成が間に合わなかったりする場合には、注文者が請負契約の解除ができます。請負人の理由で完成が不可能だと分かった時点で、すぐに解除できるのです。一方的ではありますが、民法「第五百四十三条」によって注文者が守られているということです。

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

参照⇒e-GOV法令検索:民法五百四十三条(外部サイト)

法的拘束力が生じるため、下請け契約よりも請負人の方が責任が重いことを覚えておくとよいでしょう。

「下請法」で保護されている下請け=下請負人

請負人から依頼を受けて「下請負契約」をした人を「下請負人」といいます。下請負人は、請負人の代わりに工事を完成させなくてはなりません。また、請負人と同様に他の業者に仕事を依頼することも可能です。下請負人から依頼を受けた事業者は「孫請負人」となります。

下請負人や孫請負人のような立場にある人たちも、法律で保護されているので安心です。建設業法の16・22・23条、下請代金支払遅延等防止法が当てはまります。

注文者 → 請負人 → 下請負人 → 孫請負人

下請負契約の場合は、注文者と請負人で締結される「請負契約」とは異なり、独立した契約とされています。よって、下請負人や孫請負人は債権を活用した資金調達が可能です。

注文者 ← 契約 → 請負人
請負人 ← 契約 → 下請負人
下請負人 ← 契約 → 孫請負人

下請けや孫請けの場合、下請法で守られているため、工事代金が支払われないという事態は回避できます。下請けになるほど弱い立場になると思われがちですが、法律によってしっかりと守られているので安心して仕事に取り組めるでしょう。

資金調達方法は請負人(元請け)と下請負人(下請け)で異なる

では、請負人と下請負人の資金調達について詳しく見ていきましょう。それぞれの契約の性質上、可能な資金調達方法が異なります。

請負人
  • 行政の融資制度
下請負人
  • ファクタリング
  • 手形割引
  • 債権担保融資

同じ工事であっても資金調達方法が異なるのは、工事請負代金債権の特徴が大きく関係しているからです。

「請負人(元請け)向け」の工事請負代金債権を活用した資金調達方法

請負人は仕事完成義務があるため、ある一定の条件で工事請負代金債権を譲渡することで、資金調達ができます。

工事請負代金債権を譲渡する資金調達方法の1つに「地域建設業経営強化融資制度」があります。行政が主導で行っている資金調達方法です。その他にも、東京都内の事業者向けに「きらぼし銀行」と各自治体が主導となって提供している「公共工事代金債権信託コントラスト」などがあります。

ここでは、「地域建設業経営強化融資制度」と「公共工事代金債権信託コントラスト」2つの資金調達方法についてお話ししていきます。

国土交通省の制度融資「地域建設業経営強化融資制度」とは

「地域建設業経営強化融資制度」は、国土交通省が行っている制度融資です。中小・中堅建設企業の資金繰り対策として行っています。国や地方の公共団体が発注した建設工事や、公共性のある民間工事を受注した場合に利用可能です。

参照⇒地域建設業経営強化融資制度(外部サイト)

地域建設業経営強化融資制度は、工事の出来高を低利の融資によって資金化できます。未完成の工事部分に必要な資金に関しても融資保証が受けられるので、頼もしい制度といえるでしょう。

しかしながら、未完成の工事部分に関する融資保証は「前払金」の支払いを受けた工事のみが対象です。申請の際には一度確認しておきましょう。

また、融資対象となる工事には以下のような条件があります。

  • 工事の進捗状況が50%以上であること
  • 申請した時点で残りの工期が2週間以上あること

    申請から資金調達までは、約1週間~4週間程度です。急ぎで資金化したい時にも便利でしょう。金利は年率2%~5%ですが、国から金利助成(上限年率1.2%)を受けられる制度もあります。

    「地域建設業経営強化融資制度」を活用して資金化された「借入金」は、経営事項審査の経営状況分析(Y評点)の「負債回転期間」の負債合計額から控除されます。スピーディーに資金化できるメリット以外にも、控除というメリットがあるのも特徴です。

    きらぼし銀行の金融商品「公共工事代金債権信託コントラスト」とは

    「公共工事代金債権信託コントラスト」は、きらぼし銀行(旧新銀行東京)の金融商品の1つです。

    主には、東京都内の自治体が発注している公共工事の請負代金債権を資金化できます。公共工事に限定されていますが、発注者が行政であるという信用力が担保になります。

    また、決算書等の提出が必要ないのも嬉しいポイントです。早く資金調達したい時にも、効率のよい助け舟になるでしょう。

    ただし、融資対象となる工事条件が定められているので、検討する際には要確認です。

    • 工事請負代金額1,000万円以上(都関連団体は3,000万円以上)
    • 工期までの日数が20日以上残っていること
    • 原則前払金を受領していること
    • 査定実施時に「金入り設計書(開示資料)」が必要

    地域建設業経営強化融資制度との違いとしては次の2つが挙げられます。

    • 原則前払金を受領していること
    • 下請負人に中小企業と契約している大企業も対象

      急な工期や金額変更にも対応しているため、イレギュラーな支出にも対応できます。いざという時にもメリットが大きい制度といえます。

      「下請負人(下請け)向け」の工事請負代金債権を活用した資金調達方法

      下請負人の資金調達方法は請負人に比べ、選択肢が多いのが特徴です。

      代表的な資金調達方法としては以下の3つがあります。

      • ファクタリング
      • 手形割引
      • 債権担保融資

        3つの資金調達方法を詳しくお話ししていきます。

        工事請負代金債権=売掛債権として「ファクタリング」を活用する方法

        下請負人が持っている工事請負代金債権を「売掛債権」として売却する資金調達方法があります。第三者であるファクタリング会社に売却することで、資金調達ができます。この仕組みが「ファクタリング」です。以前は、請負人と下請負人の間で「債権譲渡禁止」の特約が存在しました。

        しかし、2020年4月1日から施行された債権法改正によって、債権譲渡禁止特約そのものが無効になっています。このため、ファクタリングでの資金調達がしやすくなりました。

        注意点としては、ファクタリングを利用する場合は手数料が発生する点です。資金繰りが可能な金額をあらかじめ計算してから利用を検討するとよいでしょう。

        ファクタリングよりも高額な資金が必要ならば「債権担保融資」

        ファクタリングは手数料分が引かれてしまうため、高額な資金が必要な場合には「債権担保融資」がよいでしょう。債権担保融資は工事請負代金債権が手形ではなく、売掛債権の場合の担保融資になります。

        融資で資金を得るため、担保にしている売掛債権が回収不可能になった場合には返還しなければなりません。また、手形割引のように手数料がかかり、審査で落ちてしまうこともあります。ファクタリングよりも高額な資金が得られますがリスクもある資金調達方法と言えるでしょう。

        工事請負代金債権が手形の場合に活用できる「手形割引」

        工事請負代金債権が手形の場合は、手形割引という資金調達方法が活用できます。手形割引とは、支払期日までの利子に相当する金額を引いた残金を銀行などが支払い、手形を買い取るものです。つまり、手形を担保にすることで融資が受けとれるのです。

        ただし、こちらも手数料が発生するので注意しましょう。また、手形が不渡りになった場合や不渡りになる可能性がある場合には、融資で得た資金は返還しなければならない点も注意が必要です。

        工事請負代金債権で資金調達するなら制度や方法を積極的に活用しましょう

        工事請負代金債権はさまざまな資金調達に活かせます。制度や方法を知っておくことで資金化が叶うため、情報を持っておくことが大切です。

        請負人か下請負人かによっても資金調達方法が異なります。方法がいくつあるのかも把握しておきましょう。下請負人は下請法などの法律で保護されているので、資金調達方法に選択肢が多くなります。

        資金繰りを安定させたい時には、立場を上手に活用することも賢い方法といえます。利用できる制度は積極的に活用していくとよいでしょう。