工事代金が踏み倒されてしまい回収不能になってしまうことがあります。取れる対策としては「回収業務を行なって回収する」か「貸倒損失として経費に計上する」かの2つの対処方法が考えられます。
工事代金とは「完成工事未収入金」のことであり、「売掛金」と同じ意味で使われる言葉です。
代金が支払期日に入金されなかったり、代金そのものを踏み倒されてしまったりするような売掛金で起こりえる問題が、完成工事未収入金においても起こる可能性があります。
- 工事代金が回収できない場合にはどうするの?
- 工事代金が回収できない場合、取れる対策はある!?
- 下請法違反によって守られているため、支払われないというのは違反行為。
完成工事未収入金が回収不能になってしまった場合には、自社で回収業務を行うか、回収業務を依頼して回収するか、貸倒損失として経費に計上するかの選択となります。回収を諦めるという判断は、最後の最後の話です。
建設業界の取引高は数千万円~数億円規模とかなりの額になります。1度の回収不能に陥ってしまっただけでも、会社の資金繰りに大きく悪影響を与え、会社そのものが倒産しかねません。
そのためにも、トラブルが発生する前に適切な対応をしておくこと、そしてトラブルが起こってしまった後でも適切な対応方法を知っておくことで、資金繰りの悪化や倒産から会社を守ることができるかもしれません。
目次
工事代金(完成工事未収入金)とは売掛金と同じこと
完成工事未収入金とは、一般の企業でいうところの「売掛金」にあたります。
つまり後日代金を受け取る権利のことです。一般の会計と建設業会計で使われる勘定科目は言葉が違えど、同じような意味をもっているのです。
一般会計と建設業会計の言葉の違い
一般会計と建設業会計における言葉と意味を表で比較してみます。
一般会計 | 建設業会計 | 意味 |
---|---|---|
売上高 | 完成工事高 | 商品の代金、工事の請負金 |
売上原価 | 完成工事原価 | 商品提供、工事完成に必要な経費 |
売上総利益 | 完成工事総利益 | 売上高-売上原価 |
売掛金 | 完成工事未収入金 | 代金を後日受け取る権利 |
買掛金 | 工事未払金 | 代金を後日支払う義務 |
仕掛品 | 未完工事支出金 | 製造途中にある製品 |
前受金 | 未完工事受入金 | 商品納入前に受け取った代金の一部、工事完成前に受け取った代金の一部 |
完成工事未収入金=売掛金 起こるトラブルも同じ
完成工事未収入金は売掛金と同じ意味合いを持っています。
そのため支払遅延や踏み倒し、代金の回収不能といった売掛金で起こりえるトラブルも同じように発生する可能性があります。
たとえば、工事が完成し引き渡しが済んだのにもかかわらず、工事代金が期日通りに入金されないといったトラブルです。
とくに金額の大きな建設業界での金銭に関わるトラブルは、1度のトラブルで会社の資金繰りが大きく悪化しやすく、最悪の場合、倒産という事態になることも想定されます。
完成工事未収入金と未収金(未収入金)は異なるもの
完成工事未収入金と未収金(未収入金)は異なるものです。
完成工事未収入金は売掛金のことであると話をしてきました。ただし完成工事未収入金と未収金(未収入金)とは異なるものです。
いくつか前提として押さえておいてほしいことを以下にまとめます。
- 完成工事未収入金は建設業界でいう売掛金のこと。
- 売掛金と未収金(未収入金)は似ているが異なるもの。
- つまり完成工事未収入金と未収金は異なるもの。
つまり
そのため
ということになります。
言葉を使う場所が異なること言葉自体が変わってはくるのですが、意味合いはほとんど同じとなります。
工事代金が踏み倒され回収不能になってしまった2つの対処方法
工事代金(完成工事未収入金)踏み倒され回収不能になってしまったときの対処方法は主に2つです。「回収業務を行なって回収する」か「貸倒損失として経費に計上する」かです。
もし回収業務を選択するのであれば、「自力で回収業務を行なう」か「外部業者に委託して回収する」かの2つを選択することになるでしょう。
完成工事未収入金が回収できない理由を把握しよう
完成工事未収入金が回収できないと判明したら、どうして回収できないのかという「理由」を把握するところから始めましょう。
単純に、取引先の財務状況が悪化しているということが原因とは限りません。
取引先の財務状況が悪化している
代金を支払ってくれる取引先の財務状況が悪化して、支払いに回せるお金がない状態です。
建設業は基本的に1社だけで工事を請け負うことはありません。家屋やマンションなど住居の工事には、大工さんや水道業者、電気業者などいろいろな業者が一緒に仕事をします。
報酬もそれぞれに支払われます。取引先の財務状況が悪化している場合、すべての業者に代金が支払われなかったり、支払われたとしても契約した金額の満額が貰えなかったりする可能性もあるのです。
取引先が下請けで元請けから支払いがされていない
取引先が下請け企業で、元請け企業からの支払いがされていないために、代金の支払いが滞っていることがあります。自分の会社が孫請けで仕事を請け負っている場合に考えられる状況です。
下請けの資金力が低い中小零細企業である場合、元請けから支払われる代金を完成工事未収入金として支払うことが考えられます。直接支払う取引先ではなく、元請け企業にトラブルが起こっている可能性もあるのです。
工事内容にクレームが発生し、支払いが遅れている
工事内容にクレームが発生すると支払いが遅れることがあります。
商品のやり取りの場合は商品の返品などで対応できますが、建設業の場合は引き渡した完成工事を返品することはできません。万が一工事内容に不備が合った場合、クレームが発生して支払いがされないというケースもあるのです。
このようなクレームは、自社の責任外のケースもあります。1つの工事に対して複数の会社が関連している場合が考えられます。水道管から水が漏れていたり、電気の規格が発注と違っていたりなど、工事中のミスが原因で、結果として代金の支払いを拒まれるケースがあるのです。
追加工事料金が高額で予算オーバーしている
追加工事料金が高額で予算オーバーしていることがあります。
工事では基本的に事前の見積もりで仕事の請負が決まります。まれに工事中にもかかわらず、取引先から追加工事を依頼されるケースもあります。
追加工事の代金が高額な場合、代金を支払う発注者の予算がオーバーしてしまう可能性もあるのです。
取引先が支払いを忘れている
取引先が支払いを忘れている可能性もあります。
単純なミスではあるのですが、複数の会社が入る建設工事などで起こりえることです。支払期日が近づいている、もしくは過ぎているのに支払いがない場合には、取引先に入金の確認を取るなどして、再度請求を行ないましょう。
状況に応じ、警察や公正取引委員会などに通報することも検討しなければならないかもしれないな。
自分で回収業務を行うこともできる
完成工事未収入金が回収できない場合、自分で回収業務を行なうことも可能です。
ここでいう回収業務とは、単に取引先に対して代金支払いを求めるという簡単なものではありません。法律の力を借りて、合法的に回収を行なうことです。
法律の力を借りる場合、まずはじめに取れる行動として一般的なのは「内容証明による催告」でしょう。催促ではなく「催告」になるため、もし従わない場合は訴訟や督促などの法的手段を講じることとなります。
ただし訴訟になった場合、素人では対処できない場合が多いため、弁護士や債権回収代行業者などに依頼して話を進めていくとよいでしょう。
外部業者に回収を代行してもらう方法も
回収業務そのものを、弁護士や債権回収代行業者に依頼する方法も検討しましょう。
会社から会社に対して法的手段を取ると通知しても、会社間のパワーバランスなどが影響して回収に至らないケースもあります。
代金の回収業務を外部に委託することで、工事代金の支払いをしていない側からするとこちら側が本気であるということを示すことができます。それだけで支払いに応じるかのせいもあります。
またそれでも支払いに応じない場合でも、その後に控える法的手段での回収においてもスムーズに手続きができることになります。
外部業者に依頼する際に懸念されることとしてはコストです。
着手金が必要であったり、それに加え、回収した代金の数%を支払わなければならないケースもあります。委託料金は利益を圧迫することにもつながるため、収支バランスを考えた上で利用を検討するようにしましょう。
工事代金踏み倒しはNG 完成工事未収入金トラブル対策
工事が完成しても支払いに応じてくれない取引先もあります。経営状況が悪く支払うことができなかったり、そもそも踏み倒そうと考えていたりです。
このような完成工事未収入金トラブルに繋がらないような対策をしておくことも大切でしょう。
契約書で完成工事未収入金トラブルを防止する
契約書を作成して、代金支払い遅延や回収不能などを防ぐことが重要です。
工事を請け負う際には契約書を交わすことが一般的なルールです。口約束で数千万円~数億円の工事を請け負うことはありません。
契約書の中には、完成工事未収入金の支払期日に遅れた場合の遅延損害金や分割払い時の一括請求など、代金を確実に回収できるような内容を盛り込むようにしましょう。会社同士で作成する契約書の信頼性を高めるために、法的な力をもつ「公正証書」を作成するのも1つの手段です。
ファクタリングで工事代金が回収不能トラブルを防ぐ
ファクタリングを利用して、未回収となっている債権を売却してしまうのも1つの方法です。
ファクタリングとは、支払い期日がまだきていない売掛金や完成工事未収入金といった売掛債権を売却して資金を得る方法です。建設業界では利用者が比較的多い金融サービスともいわれています。
銀行の事業性融資とは異なり、借金ではないため毎月の返済なども発生しません。
建設業がファクタリングを利用する場合の注意点は2つです。
建設業者がファクタリングを利用するときに重要となるのがこの2つです。
買取上限額は完成工事未収入金の金額をカバーできるか?
ファクタリングは売掛債権を売却して、そのお金を資金として確保できる金融サービスですが、買い取れる売掛債権の金額には上限があります。ファクタリング会社の中には買取上限額を数百万円に設定している会社もあります。
ファクタリング会社を選ぶ際には、この買取上限額にも注意をしなければならないのです。せっかくファクタリングで資金を得たくとも、買取上限額以上は申込みできないため、イチからファクタリング会社選びをしなおすことにもなってしまいます。
買い取ってほしい完成工事未収入金の金額に合わせて、ファクタリング会社選びを行ないましょう。
ファクタリング手数料がどのくらいか?
ファクタリングを利用する際には、手数料が発生します。手数料は貸金業法のように上限が決まっていません。ファクタリング会社同士の相場によって決まっています。相場は売掛債権金額の5%~30%程度がかかります。
建設業の完成工事未収入金は金額も高くなるため、たとえ5%だとしても1億円の完成工事未収入金の場合は500万円も手数料がかかるのです。利益を1円でも高く確保するのであれば、なるべく手数料が安い会社を選びましょう。
参照 優良ファクタリング会社
工事代金の踏み倒しは下請法違反
事業をしている人であれば1度は経験があるかもしれませんが、代金を踏み倒そうとする事業者は少なからずいます。
受注した工事が完成したのにもかかわらず、約束の代金を支払ってこないケースです。
この踏み倒す行為は「下請代金支払遅延等防止法」に接触する行為となります。下請法には売掛金を60日以内に支払うという内容が明記されています。そのためもし代金の支払いをしてこないばあには、下請法に接触していることを取引先に告げるといった方法もあることでしょう。
参照 下請けからの請求書が遅れたとしても支払いが遅れることは許されない
完成工事未収金トラブルには正しい対処と適切な対策をとろう!
完成工事未収入金トラブルは、正しい対処方法と適切な対策を行なうことで、資金繰りの悪化や倒産を引き起こす問題に発展しにくくなります。
大事なこととして、トラブルが起こる前に防止する策を立てておくことです。たとえば契約書に支払いに関するあらゆる状況で発生する問題についての文言を入れておくことです。
また契約書に書かれているのにもかかわらず、支払いに関する問題が発生してしまったときには、速やかに回収作業を開始するようにしましょう。自社で行うのも良いですが、回収代行業を専門に扱っている業者に依頼するのもよいでしょう。
ここで取引先のことを考え、「待つ」という選択は避けた方がよいです。万が一取引先が倒産してしまった場合には、完成工事未収金の回収が非常に困難となってしまいます。もし回収できなければ、それは自社へ大打撃となり、経営が不安定になりかねません。
汗水流して得た報酬は確実に回収して、会社を大きくしていきましょう。
※参照1中小企業庁下請代金支払遅延等防止法