売掛債権担保融資保証制度とは、信用保証協会という社団法人が売掛金の保証をしてくれる制度です。これにより売掛金を担保として銀行から融資を受けることができるのです。
通常、金融機関からの融資を受けたいと考えた場合、担保が必要となってきます。しかし担保はなかなか用意することができるものではありません。
しかしこの制度を利用することで、持っている売掛金を担保にすることができるのです。売掛金を担保として認めてくれるのが信用保証協会であり、信用保証協会が認めてくれるということで銀行も融資に踏み切りやすくなるのです。
特に大きなメリットとして「返済のための資金を用意しなくても良い」ということでしょう。融資を受ける方式は「手形貸付」になるため、融資を受けたとしても支払いは売掛先が行ないます。つまり売掛金をもらう予定だった売掛先が、代わりに返済してくれるといった構図となるのです。
売掛債権担保融資を利用しやすく、審査も通りやすくしたのが「売掛債権担保融資保証制度」なのです。
銀行からすると信用保証協会が認めたという事実は大きい。これにより売掛金を担保として金融機関からの融資を受けられるようになるということだ。
目次
売掛債権担保融資保証制度はどんな制度なのか?
売掛債権担保融資保証制度とは、中小企業向けに「売掛金を担保にした融資」を「受けやすくするために創設された保証制度」のことです。
この保証制度があることで、利用者はもちろん、融資を行なう金融機関も売掛金を担保にした融資をしやすくなりました。
制度が生まれた背景 手形取引が減少したため
掛債権担保融資保証制度が生まれた背景には、手形での取引が減少したことが原因と考えられます。
バブル崩壊後、土地の価格が下落し、不動産を担保にした融資サービスの利用が少なくなりました。また、不況の真っ最中に起こったリーマンショックの影響で、それまで企業同士の取引で主流だった手形を使った取引が少なくなりました。
不渡りとは、受け取った手形が期日になっても換金できない状態のことです。つまり売り上げが入らない状態となってしまい、会社経営にダメージを与えることになってしまうのです。
参照 請求忘れの時効はいつまで?時効期限になると回収不能になる!
手形取引は不渡りという大きなリスクを抱えています。そのため手形の利用が少なくなる代わりに、会社間の取引で主流になったのが手形を使わない掛取引となります。つまり現金での取り引きです。
現金での支払い(現在の主流) | 手形での支払い(過去の主流) |
---|---|
A社 100万円分の商品を納品した。 B社 ありがとうございます。2ヶ月後に現金でお支払いします。 | A社 100万円分の商品を納品した。 B社 ありがとうございます。手形でお支払いします。 |
本来は手形を使った取引も「掛取引」ですが、手形が発生しない取引では、売掛や買掛、要は「ツケ」での取引が主流になったのです。
不動産担保融資の減少や手形取引が下火になると、お金の回りが悪くなります。お金が回らなくなると不景気が起こります。日本政府としては、市場にお金が回らない状況、つまり不景気を防ごうと、日本銀行への金融緩和などを行なってきました。
それでも中小企業の資金繰りは改善せず、資金力の低い中小零細企業の多くが倒産もしくは倒産に近い状態まで追い込まれたのです。
そこで政府はさらなるテコ入れを行ないます。取引で主流になっている掛取引で発生する「売掛債権」を担保にした融資を促進させることで、中小企業の資金繰りを改善し、市場のお金の回りを良くしようと考えたのです。そこで誕生したのが、この「売掛債権担保融資保証制度」です。
仕組み 売掛債権を保証協会に担保として保証してもらう
売掛債権担保融資保証制度とは、中小企業がもっている売掛債権を担保にして融資を申し込む際、信用保証協会に担保対象の売掛債権を保証してもらう制度です。
これにより売掛債権が担保として利用することができるようになり、融資を受ける際の審査が通りやすくなるというメリットがあります。
保証には審査が行なわれます。審査を通過すれば、担保にしている売掛債権額を元に融資額が決定され、中小企業は運転資金を確保できるのです。
万が一売掛先である取引先が倒産した場合、融資した金額の9割を信用保証協会が代わりに支払ってくれるほか、不渡りになった売掛債権は、申込者ではなく「金融機関」と「信用保証協会」が回収業務を代行してくれるなど、中小企業の負担軽減にも繋がる制度なのです。
利用対象者は中小企業
売掛債権担保融資保証制度の利用対象者は中小企業となります。
製造業では資本金3億円以下、または常時使用している従業員数300人以下の会社など細かい規定が設けられていますが、基本的には業種にかかわらず利用が可能です。
保証内容 上限限度額が決められている
限度額の範囲内であれば、1年間反復して融資を受けられます。
融資希望額や売掛先である企業の状況によって融資限度額が異なります。担保にする売掛金の金額にもよりますが、融資限度上限額は1億1,100万円までです。
対象となる売掛債権の種類
この制度の対象となる売掛債権の種類は決められています。
- 売掛金債権(事業者に対する売掛金)
- 割賦販売代金債権
- 運送料債権
- 診療報酬債権
- 工事請負代金債権など
債権の種類での注意点は2つです。
- 売掛先企業は法人であること
- 債権譲渡禁止特約付きの売掛債権は対象外であること
売掛先企業は法人であること
売掛先は法人である必要があります。
働き方改革などの影響もあり、近年では個人事業主が多くなりつつあります。ところがこの制度では、取引先は「法人のみ」と明記されています。個人事業主が取引先の場合は、この制度が利用できません。
債権譲渡禁止特約付きは対象外 ただし
権譲渡禁止特約付きの売掛債権は、この制度の対象外となっています。
売掛債権の中には「他社に譲渡してはいけない」という「債権譲渡禁止特約」が付いている契約もあります。担保にしたい売掛債権が禁止特約付きの場合、取引先から債権譲渡禁止特約の解除承諾を得て解除承諾書を提出しなければ、この制度は利用できません。
しかしそれはこれまでの話です。2020年の4月より、債権譲渡禁止特約が無効化されました。
売掛債権担保融資保証制度で期待されるメリット
この制度で期待されているメリットは次の3つです。
資金調達能力のアップ
不動産担保融資に必要な不動産などの資産を持っていない会社であっても、売掛債権を担保にすることができるため、保証人不要で資金調達が可能になります。
融資額で投資などの資金運用を行ない、資金調達能力をアップできると期待されています。
資金繰りの改善
売掛債権の支払い日前に資金調達が可能になるため、急な経費の支払いやチャンスロスを減らすことで、企業の資金繰りの改善が期待されています。
返済に困らない資金調達
この制度で融資を受けた場合、融資を申し込んだ会社が返済のために資金を調達する必要がありません。
手形貸付の形で借入が行なわれ、取引先から直接金融機関に売掛債権の代金を支払うため、融資を受けた側としては自らの返済が不要ということにもなります。
売掛債権担保融資保証制度の使い方
制度を利用する際の手順は、あなたが持っている売掛金を手に銀行へ行って申し込むだけです。
融資限度額は1億1,100万円までで、実際に融資された金額の90%を信用保証協会が保証します。万が一取引先が倒産して、担保となる売掛金が不渡りになった場合は、信用保証協会が融資額の90%までを金融機関に対して弁済し、信用保証協会と金融機関が回収を行ないます。
融資を受ける手順
この制度を利用して融資を受ける際の手順を紹介します。
利用者、金融機関、信用保証協会の3社がどのような流れ利用者への融資決定をするのか把握しておきましょう。
- 金融機関へ申し込み
- 金融機関が審査
- 信用保証協会へ保証申し込み
- 信用保証協会が審査
- 信用保証の決定
- 申込者へ融資の実行
- 売掛先から金融機関口座へ入金
ポイントとなるのが、金融機関、信用保証協会の両方の審査に通過しなければならないという点です。審査ポイントが公表されているわけではありませんが、それなりの信用力がなければこの2つの審査を通過するのは難しいでしょう。
信用保証協会の保証審査に通過できない場合、与信力などの問題で融資審査にも通過できない可能性が高いです。その場合はこの制度を活用した融資はあきらめて、他の資金調達方法を検討してください。
売掛債権担保融資保証制度が利用できない場合の資金調達方法「ファクタリング」とは?
売掛債権担保融資保証制度は、売掛債権を担保とすることができるため、担保のない事業者にとっては非常に便利な制度です。
ところが必ずしも審査に通るわけではありません。基本的には銀行と信用保証協会での審査が必要となるため時間もかかります。
そのような場合、どうしても資金が必要となる場合には、他の資金調達方法を検討しなければなりません。
売掛債権を利用して資金調達するといえば、まず思いつくのは「ファクタリング」でしょう。持っている売掛債権を売却して資金を得るという方法です。手形取引よりも掛取引が主流になった2000年代後半から徐々に認知されてきました。
参照 ファクタリング
ファクタリングのメリット
ファクタリングは融資と違い、売掛債権を「売却」することで資金を得るサービスです。
融資ではないため毎月の返済や利子などが発生しません。また売却した売掛債権が不渡りになったとしても、買戻しなどが発生しません。不渡りのリスクごと売却できるのです。
不渡りのリスクごと売却することができるということは、それだけ手数料が高くなるということです。
売却した売掛債権は売却先であるファクタリング会社のものです。売掛先から代金が入金されたら、その全額をファクタリング会社へ送金してください。
利用者が審査対象として重要視されていないこともメリットです。つまり、どれだけ企業の信用力である「与信力」が低い企業であっても、売掛債権をもつ取引先企業の与信力が高ければ審査通過する可能性が高いといえます。取引先が上場企業や日経平均株価の対象企業だった場合は、審査通過率もさらに高くなります。
資金調達までのスピードも金融サービスの中では最も早いといわれています。売掛債権の買取を行なうファクタリング会社にもよりますが、最短で申し込んだ当日に資金調達が可能な場合もあります。
つなぎ資金や緊急で資金が必要な場合などに重宝する金融サービスなのです。
- 借金にならない
- 審査対象は債務者である取引先
- 申込者の与信力が低くても審査通過可能
- 資金調達までのスピードが早い
ファクタリングのデメリット
ファクタリングは借金ではありませんが、利用するためには売掛債権総額の割合手数料が発生します。つまり、売掛債権の全額は資金化できないということです。手数料は取引方法によって異なります。取引方法とは利用者とファクタリング会社で契約を結ぶ「2社間ファクタリング」と利用者とファクタリング会社、それに取引先を加えた3社で契約を結ぶ「3社間ファクタリング」があります。
2社間よりも3社間の方が手数料は優遇されています。2社間で15%~30%、3社間で5%~10%です。しかしこの手数料、実は融資の利率上限を決めている貸金業法のような手数料に関する法律が存在しません。そのため、ファクタリング会社同士の「相場」によって決められています。
あくまでも「相場」であるため、極端な話ですが2社間で50%以上、3社間で30%以上の手数料を請求されたとしても「違法ではない」のです。
この「手数料に関する法律が存在しない」というのは、他のデメリットも生んでいます。その1つが悪質な詐欺業者や闇金業者が存在している点です。ファクタリングの仕組みなどを管轄する法律自体は民法で定められているものの、肝心の手数料などに関しては法律が整備されていないため、悪質な業者が入り込みやすい環境なのです。
また、ファクタリング会社を設立する上で、特別な許可を必要としない点も悪質な業者が存在ししている原因の1つです。ビジネスローンなどは店舗がある県知事から貸金業者の認可を受けなければ営業ができません。しかしファクタリングは貸金業ではないため、特別な許可を必要としません。
ファクタリング会社選びは「手数料」や「詐欺業者か否か」を見極めながら、じっくりと検討しなくてはならないのです。
- 手数料が発生する
- 手数料上限を決めている法律が存在しない
- 悪質な業者が入り込みやすい業界環境になっている
- ファクタリング会社選びが難しい
売掛債権担保融資保証制度で資金繰りを改善させよう!
売掛債権担保融資は、不動産などの資産がない中小企業にとっては便利な制度です。信用保証協会の審査に合格しなければ利用できませんが、最大で1億1,100万円の融資を、売掛債権を担保にするだけで調達できるのは嬉しい制度です。
もし審査に合格せずとも、ファクタリングのような与信力が必要ない資金調達方法も視野に入れて、効果的な資金調達を行なってください。
参照 動産担保融資制度
コメントを残す