売掛債権を売却して資金調達をするファクタリングが、注目されています。企業は保有している売掛債権を原資として資金調達を行うことが可能です。しかし、債権法の規制により、ファクタリングは、どんな売掛債権でも資金化できる訳ではないのです。
資金化する上で、融通が効かないところもあるファクタリングでしたが、2020年の債権法改正により、資金化できる売掛債権の幅が広がります。それに伴い、先立ってファクタリング会社は増加傾向にあるのです。
債権法とはどのようなもの?
正しくいえば、法律に債権法という名前はありません。債権法とは、民法466条に記載されている債権の譲渡に関する法律を指します。債権法の重要な部分を抜粋して紹介します。
”債権は原則として譲り渡すことができる(第466条1項本文)指名債権の譲渡は、諾成・不要式の契約であり、新旧債権者間の合意(意思表示)のみによって成立し効力が生ずる。ただし次の例外がある。
債権の性質がこれを許さないとき(第466条1項但書)
当事者が反対の意思を表示した場合(第466条2項)”
出典:法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html
制定されてから120年、民法が変わることはありませんでしたが、2017年5月に債権法を含む民法そのものが改正されました。改正される前の債権法は、一体どんな法律だったのか解説していきます。
債権法がファクタリングにとって壁となる
現行の債権法はファクタリング業者にとって、ファクタリング取引の壁になっています。ファクタリングは、民法466条(債権の譲渡性)に沿って行なわれています。この民法466条2項に「反対の意思表示があれば債権の譲渡は無効になる」が記載されています。これが債権譲渡禁止特約です。
例えば、売掛元にファクタリングをされた場合、
- 支払先が煩雑になる恐れがある
- 譲渡先の信憑性を確認することができない
というリスクがあり、売掛先にとって不利益になってしまう恐れがでてきます。そのため、大手企業を中心に売掛債権に債権譲渡禁止特約をつけたがる傾向があるのです。
債権譲渡金特約は、売掛元がファクタリングによる資金調達をしたくてもできないという状態にしてしまうため、ファクタリング業者はもちろん、ファクタリング申込者にとってもファクタリングによる資金調達を阻む壁になってしまうのです。
債権法は資金調達への影響が大きい
民法では、債権譲渡禁止特約のある債権が、売掛元の承諾なく売掛先から第三者に譲渡された場合、譲渡そのものが無効になります。特約の存在を知らなかった場合は、第3者が保護されるケースもあります。しかし、一般的には売掛債権を買取する時、売掛債権の内容をチェックするのは当たり前のことです。
ファクタリング会社は、債権譲渡禁止特約のつく売掛債権を買取ることができません。これにより申込者である企業がファクタリングによる資金調達ができなくなってしまうのです。
しかし民法の改正により、たとえ譲渡禁止特約がついている債権であっても、基本的に譲渡は有効とされることとなりました。
債権回収とファクタリングの違いとは?
ファクタリングと混同しがちな資金調達の方法に債権回収があります。ファクタリングも債権回収のひとつとして分類されていますが、債権回収会社が行っている業務とは内容が異なります。債権回収会社は、借金の取立てを行う会社です。
債権回収とは、金融機関などから借りたお金が返済不能となった場合、担保としてさまざまな債権を買い取り、債務者に支払い督促や競売の申し立てなどを行うことです。
売掛債権の種類
売掛債権とは、企業や個人事業主が通常の営業活動などによって、商品やサービスを顧客に販売したあと、まだ受け取っていない代金を請求できる権利のことです。売掛債権の種類として、
- 未収金
- 受取手形
- 売掛金
などが挙げられます。どの売掛債権も、商品やサービスは販売・提供し終わっているけれど、その代金は回収できていないことを示します。細かな違いとして、未収金は、営業取引以外の代金でまだ回収できていない資金です。
売掛金と受取手形は、営業取引における未回収代金です。売掛金は、売掛先と売掛元の取り決めで成立しますが、受取手形は法律上の約束の上に成立します。
このように、売掛金は、法的な期日や支払い義務を拘束する力が弱いため、信頼できる売掛先としか活用できないといえます。
債権回収会社とファクタリング会社の使い分け方
ファクタリングと債権回収では、回収対象となる債権も利用するタイミングも違います。ファクタリングでは、特定金銭債権の買取ができません。一方で債権回収は、売掛債権の買取ができません。利用者としては、ファクタリングは債権の不良化を回避する方法であり、債権回収は不良化した債権への対処法ということです。
売掛金を期日より早く資金化したいのであれば、ファクタリング会社を利用する。特定金銭債権の回収を待たずに、早急に資金化したいというのであれば債権回収会社を利用する。このような使い分けをすることで、効率よく資金調達ができます。
債権譲渡は特殊な資金調達の方法なのか?
ファクタリングは、古くから活用されている資金調達の方法で、海外では手形取引よりも利用されています。しかし、日本では債権譲渡での資金調達は特殊とされる傾向がいまだに根強いのが実情です。
債権譲渡は悪用される恐れがある
ファクタリングは、正しく行われている限り、違法な資金調達の方法ではありません。ただし、ファクタリング業者を装った悪徳業者もいるため注意が必要です。売掛債権を担保として高金利で金銭を貸し付けるという悪徳業者もいます。
ファクタリングは融資ではなく、手数料にも明確な規制がありません。貸金業法の規制に抵触しないファクタリングは、ヤミ金業者がファクタリング業者を装い高金利貸付に結び付ける、債権譲渡を悪用した金融犯罪を行っているのです。
法規制で資金調達の幅が広がる
民法が約120年ぶりに全面改正され、ファクタリングに関する規制も大きく変わりました。
債権譲渡禁止特約があっても譲渡が有効になる
従来の債権法では、債権の譲渡そのものを禁止していましたが、改正後は、債権の譲渡の禁止、又は譲渡を制限する意思表示をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられなくなりました。
売掛債権の価値が高まる
債権法の改正後は、改正前に譲渡禁止だった債権に改正法の規定が適用されます。譲渡禁止から譲渡制限債権とみなされ、債権をファクタリングの資金調達に活用できる可能性が高まるのです。
債権の流動性が高まる
改正によって、譲渡が有効となる債権の幅が広がります。単純に債権の流動性が高まり、資金調達などに活用しやすくなるため、担保などにする場合の価値が上がります。
このように改正前にあった制限が緩くなることで、売掛債権を用いた資金調達の幅が広くなりました。
改正後のファクタリング業界は利用しやすくなった
民法の改正により、譲渡制限のある債権も譲渡が容易となり、債権譲渡による資金調達もしやすくなります。これまで、売掛債権譲渡禁止特約の付いた売掛債権は、ファクタリングの対象にはなりませんでした。このことが、ファクタリングでの資金調達に壁を作っていたのです。
債権法の改正により、ファクタリングが業者はもちろん利用者にとっても利用しやすくなります。今後色々なサービスを展開するファクタリング業者が参入するのは間違いありません。自社に合ったファクタリング業者を探して、効率的な資金調達を行なって下さい。