事業を運営していくにあたり、運転資金の調達は命題とも言えるほど重要なことです。資金がなければ事業を運営することもできませんし、最悪の場合は倒産してしまうこともあるでしょう。だからこそ常日頃から運転資金の流れには敏感になっておくことが重要です。
しかし、いくら運転資金の流れを把握していたとしても、緊急で資金が必要になるケースも考えられます。
- 損害賠償が必要な規模の事故を起こした
- 売上げ代金が取引先から期日に入金されない=他の取引先に材料費などが支払えない
緊急で運転資金が必要になった場合にとれる資金調達方法は多くありません。
主な方法として次の3つが挙げられるでしょう。
- ビジネスローン
- 売掛債権担保融資
- ファクタリング
ビジネスローンは銀行系とノンバンク系の2種類があり、ノンバンク系は融資を申し込んだ当日中に資金調達が可能なところもあります。
売掛債権担保融資やファクタリングは、売掛債権を持っている事業者が利用できる資金調達方法です。両方とも売掛債権を使用します。ファクタリングは金額や業者によって、申し込んだ当日中の資金調達が可能です。
緊急時の資金調達方法其の1~ビジネスローンについて
事業者様が緊急時の資金調達方法として最初に思い浮かぶビジネスローンは、法人や個人事業主が事業に必要な資金を無担保で借りられる融資サービスです。申込みできるのは事業者のみで、資金用途も事業目的でしか利用できません。
ビジネスローンと金融機関の事業性融資の違い
ビジネスローンと金融機関の事業性融資の違いとして、もっとも大きな点は次の2点です。
- 審査方法
- 借り入れ可能な上限金額
事業資金とは「設備資金+運転資金」のことです。事業性融資は事業資金を融資する商品であるため、金額もかなり大きなものになります。高額な融資には貸し倒れにならないように厳正な審査が行なわれます。
つまり、ビジネスローンは借り入れ可能な金額が低いため、事業性融資に比べて審査時間や審査項目が少ないという違いがあるのです。
事業性融資の審査方法・審査時間について
事業性融資とビジネスローンの審査方法は借り入れ可能な金額に違いがあることから、審査項目も大きく異なるものです。事業性融資を申し込む際に必要な書類の中に「決算書」があります。決算書は前期や前々期など、複数の決算期の提出が必要です。
事業性融資の審査方法はランク付けで決まる
金融機関は決算書の数字をもとに事業者の財務状況が健全であるかどうかをランク付けします。そのランクに応じて融資の審査可否が決められます。ランクは次の6つに分けられます。
- 正常先
- 要注意先
- 要管理先
- 破綻懸念先
- 実質破綻先
- 破綻先
正常先はほぼ確実に審査に通過できるとされています。要注意先と要管理先は希望融資上限金額が引き下げられるなどの「条件付き」で審査に通過することができるとされています。破綻懸念先、実質破綻先、破綻先の3つのランクに格付けされた場合、ほぼ確実に審査は通りません。
事業性融資の審査時間は1ヶ月以上かかる
事業性融資の審査の流れは以下の通りです。
- 金融機関の融資担当者が事業所の訪問や経営者との面談を行なう
- 担当者の判断で融資申込みの可否が決まる
- 担当者が稟議書(りんぎしょ)と呼ばれるレポートを作成
- 金融機関の支店(融資を申し込んだ金融機関)で回覧される
- 支店長が中間決済
- 金融機関本店の融資担当部署に稟議書が回される
- 金融機関の部長や役員クラスの最終的な決済
- 融資決定
上記の流れが金融機関の事業性融資の審査フローになります。複数の工程があるため、最終的に融資が決まるのは、申し込んでから1ヶ月以上かかるのです。
ビジネスローンの審査方法・審査時間
結論からいうと、事業性融資に比べて「早く借りやすい」のがビジネスローンになります。
ビジネスローンにはスコアリングシステムという仕組みが使われています。スコアリングシステムはビッグデータと呼ばれている「日本国内の事業者や金融機関のデータベースなどから集められたデータ」をもとに運用されています。
ビジネスローンの担当者がデータをコンピューターに入力することでスコアリングシステムが稼働し、自動的に審査結果が算出されるのです。スコアリングシステムを通すことで、人間が目視でデータをチェックし、返済能力や貸し倒れリスクを判断していた部分を省略化できます。
ビジネスローンによっては、申し込んだ当日中に審査結果が判明して、資金を調達できる商品もあります。
緊急時の資金調達方法其の二~売掛債権担保融資
売掛債権担保融資は、支払日前(入金前)の売掛金を担保として差し入れることで融資を受けられるローン商品です。一般的にはABLとも呼ばれている金融商品が売掛債権担保融資になります。
はじめに言っておきますと、ビジネスローンや民間のファクタリングに比べると利用するまでに時間がかかってしまいます。
売掛債権担保融資のメリットとデメリット
売掛債権担保融資には以下のメリットとデメリットがあります。
- 固定資産が無くても融資を受けられる
- 資産管理・在庫管理のシステム化ができる
- 売掛債権担保融資を申し込んだ金融機関との取引実績が作れる
メリット1.固定資産が無くても融資を受けられる
売掛債権担保融資は不動産のような固定資産が無くとも、売掛債権さえあれば利用できます。2026年の手形取引廃止化が法律で制定されて以降、手形取引から売掛取引に切り替わっている実状もあります。取引契約書がどうなっているか一度チェックしてみるとよいでしょう。
もしかすると、手形取引だと思っていた売上げが売掛取引である可能性(=売掛債権担保融資で資金調達可能)もあります。
メリット2.資産管理・在庫管理のシステム化ができる
売掛債権担保融資は担保にしている商品在庫の管理と報告が必須です。そのため、いままで管理システムを導入していなかった事業者にとっては、導入するきっかけにもなるでしょう。導入当初は面倒な作業が発生するものの、長期的な視野で見ると在庫管理システムは導入した方がメリットの大きい仕組みです。
メリット3.売掛債権担保融資を申し込んだ金融機関との取引実績が作れる
売掛債権担保融資は事業性融資に比べて審査通過率が高いという特徴があります。その特徴を活かして積極的に売掛債権担保融資を活用することで、容易に金融機関との取引実績が作れます。
将来的に事業性融資を申し込む際、この取引実績が優位に働く可能性は大いにあるでしょう。長期的な資金調達計画がある場合、売掛債権担保融資の活用で取引実績を作るという手段を検討してみるのも1つの手段です。
売掛債権担保融資のデメリット
売掛債権担保融資の主なデメリットは次の3つです。
- 審査が緩いわけではない
- 売掛先が倒産した場合は調達した資金の返済が必要になる
- 契約次第では事業を乗っ取られる可能性もある
デメリット1.審査が緩いわけではない
売掛債権担保融資は事業性融資に比べて審査通過率が高いとされていますが、審査次第では融資不可になる可能性もあります。売掛先事業者の財務状況が悪い場合や申し込んだ事業者の財務状況が悪い場合は貸し倒れリスクが高くなるため、審査落ちする可能性が高くなるでしょう。
デメリット2.売掛先が倒産した場合は調達した資金の返済が必要になる
売掛債権担保融資は、売掛債権の代金が入金されたタイミングで返済がスタートします。本来であれば、入金された代金をそのまま返済に充てられるため、借りる側の負担はそこまで大きくありません。
しかし、売掛先が倒産してしまった場合や売掛先から何らかの理由で代金が支払ってもらえなくなった場合、返済負担はすべて融資を申し込んだ事業者が負うことになります。返済が負担となって倒産する可能性もあるため、注意が必要です。
デメリット3.契約次第では事業を乗っ取られる可能性もある
売掛債権担保融資は銀行などの金融機関だけではなく、ノンバンク系の金融会社でも扱っています。ノンバンク系の売掛債権担保融資の場合、契約内容によっては事業を乗っ取られる可能性もあるのです。
ノンバンク系の金融会社の中には反社会的勢力の子会社もあります。巧妙な手口で反社会的勢力とのつながりを隠して営業しているのです。返済遅延などを理由に事業を乗っ取られてしまい、すぐに第三者に事業を売却されてしまうといった手口もあります。
ノンバンク系の売掛債権担保融資商品は充分に吟味したうえで利用するとよいでしょう。
緊急時の資金調達方法その3 ファクタリング
ファクタリングは売掛債権を専門業者(ファクタリング会社)に売却して資金を得る資金調達方法です。売掛債権担保融資と異なり、取引先が倒産してしまったり、売上げが期日どおりに入金されなかったりした場合でも返済義務はありません。
融資やビジネスローンのような「借りる」資金調達方法ではなく、資産売却のような「売る」資金調達方法であるため、将来的な借金にもなりません。ファクタリング会社によっては申し込んだ当日中に資金を調達できるところもあります。
審査も事業性融資や売掛債権担保融資、ビジネスローンに比べて通過しやすいため、数ある資金調達方法の中でもかなりメリットが多い方法と言えるでしょう。
ファクタリング利用時の2つの注意点
ファクタリングはメリットの多い資金調達方法ではあるものの、注意点もあります。ファクタリングを利用する際の注意点として、次の2つが挙げられます。
- 手数料が発生すること=売掛金の額面満額の資金調達はできない
- 取引先との関係性が悪化する可能性もある/
注意点1.手数料が発生すること=売掛金の額面満額の資金調達はできない
ファクタリングは売掛金の額面総額の5%〜30%を手数料として売却先のファクタリング会社に支払わなくてはなりません。手数料がファクタリング会社の売上げになるからです。ファクタリングは貸金業ではないため、貸金業法が適用されません。そのため、高額な手数料だとしても違法ではないのです。
安い手数料のファクタリング業者の場合、悪質業者の可能性もあるため、知名度が高く、取引実績も豊富なファクタリング会社を中心に比較検討するとよいでしょう。
注意点2.取引先との関係性が悪化する可能性もある
資金難の事業者との取引を敬遠したい事業者もいるでしょう。ファクタリングを利用した場合、売掛債権をファクタリング会社に売却したという事実は登記を確認するとすぐに判明します。
ファクタリング会社から取引先へ売掛債権を購入したという事実を公表することはありませんが、もし取引先が売掛債権を売却した事実を知ってしまった場合、関係性が悪くなることも考えられます。
関係性が悪化しにくい方法として、ファクタリングの契約方式を3社間、つまりファクタリングを申し込んだ事業者と取引先、そしてファクタリング会社の3社の間で契約する方法もあります。
その場合、契約段階で取引先にファクタリングの事実を公表することになるため、後になってからバレるよりも印象は悪くならないでしょう。また、3社間取引の場合は2社間(申し込んだ事業者とファクタリング会社の2社で取引先に告知されない契約方式)に比べて手数料が安くなります。
取引先との関係性を踏まえて、契約方式を考えるとよいでしょう。
緊急時の資金調達方法は経営状況に合わせて複数用意しておくことが大事
緊急時に事業資金が必要になった場合、すぐにビジネスローンを選択するのはおすすめできません。ビジネスローンは借金であり、後になってから返済という負担があるためです。
売掛債権担保融資であれば、将来的な返済負担はビジネスローンに比べて軽くなります。ファクタリングの場合は手数料さえ支払えば返済は一切発生しません。
資金調達なら○○!という思い込みは事業の財務状況を悪化させる要因にもなりかねません。借金以外の方法もあることを覚えておくとよいでしょう。
だからといって、借金はNGということはありません。高額な資金が必要になった場合には、金融機関の事業性融資も検討すべき資金調達方法です。どの資金調達方法にせよ、必ず返済計画、資金運用計画を立ててから申込みするとよいでしょう。