銀行などの金融機関や融資会社から融資を受ける場合には、「返済計画書」を提出しなければなりません。
まず返済計画書ですが、「借入金やリース契約などの負債情報を把握しやすくした書類」のことです。計画的に返済を行なうための指標でもあり、融資審査の手続きをスムーズにしたり受かりやすくなるための証明書類でもあります。
会社の経営にはお金が必要となります。人件費や材料費、仕掛品や機器の修繕費など、あらゆる部分でお金が必要になるものです。
個人事業主や中小企業など、資金繰りが安定しづらい規模の会社の場合、金融機関や金融会社からの融資によって運転資金を調達することも多いでしょう。
どこから融資を受けたとしても、計画的に返済をしなければ信用を失うことにつながり、結果として取引停止などのペナルティを負ってしまう可能性もあります。今後、運転資金を調達しようと思ってもできなくなってしまうのです。または残っている返済金額を一括で返済するよう要求される可能性も出てきてしまうのです。
よって計画的に返済していくということは非常に重要なこととなるのです。
このようなことを回避するためにも、何かしらの融資を受ける際には、返済計画書についての知識を身につけておいた方が良いと言えます。
今回は返済計画書の作り方や考え方、運用する注意点について解説していきます。
参照 銀行融資で資金調達 金利の低い銀行から賢く資金調達する方法
目次
返済計画書の目的と役割
返済計画書には「目的」と「役割」があります。
まず「目的」ですが、主に次の2つが挙げられます。
- 自社が抱えている負債、つまり返済しなければならないお金、支払い義務のある支出金の把握と証明
- 融資を受ける際に、どのような計画で返済を行うかの証明
さらに細かくいうと以下のような内容に区分されます。
- 借入金の種類やリース契約の種類
- 借入金とリース契約の金利や返済期間などの契約条件
- 毎月の返済金額とその総額
- 来月以降の返済金の変動
返済計画書があることで、さらに資金調達が必要になった場合に、新たに融資を受けられるかどうか、融資を受けて返済が可能かどうかなど、お金を貸す側が診断しやすくなるのです。
またお金を借りる側にとっても、これ以上融資を受けても返済していけるのかを判断しやすくなるのです。
資金繰り表の関係
返済計画書は会社の資金繰りを管理する上で作成する「資金繰り表」と密接な関係があります。
資金繰り表の簡単な構造を見てみましょう。
項目 | 対象月 | |
---|---|---|
前期からの繰越金 | 〇月 | |
経常収支 | 経常収入 (現金売上、売掛金、手形) | |
経常支出 (現金仕入、買掛金支払、手形決済、人件費など) | ||
経常収支-経常支出 | ||
経常外収支 | 経常外収入 (本業とは異なる収入) | |
経常外支出 (本業の仕入れや経費以外での支出) | ||
経常外収支-経常外支出 | ||
財務収支 | 財務収入 (資金調達などの借り入れ、助成金や補助金、売却などでの収入) | |
財務支出 (借入金の返済) | ||
財務収入-財務支出 | ||
翌月への繰越金 |
参照 資金繰り表のテンプレート例に沿って自分の会社に適した資金繰り表を作ろう!
ここで注目してほしいのは「財務収支」の部分です。
財務収支とは、会社の営業に関わらない財務上の収入と支出のことです。
- 長期借入金の調達:長期で借入を行ない、資金調達をした金額
- 短期借入金の調達:短期で借入を行ない、資金調達をした金額
- 定期預金の取り崩し:定期預金を取り崩した金額
- 増資:増資として入金された金額
これらの合計額が資金繰り表に計上されます。対して財務収支の支出では
- 長期借入金の返済:長期借入金の返済金額
- 短期借入金の返済:短期借入金の返済金額
- 定期性預金の預入:定期預金で入金した金額
これらが計上されます。この財務収支のうち「長期借入金」と「短期借入金」に関わってくるのが返済計画書になるのです。
返済計画書の役割
次に返済計画書の「役割」に触れたいと思います。
先ほどお話しした「返済計画書の目的」をもう一度振り返ってみましょう。
- 自社が抱えている負債、つまり返済しなければならないお金、支払い義務のある支出金の把握と証明
- 融資を受ける際に、どのような計画で返済を行うかの証明
もう少し簡単に説明すると以下のような感じとなります。
- 借金一覧表
- 融資審査に受かるための借金返済記録表
といった意味合いとなります。
「融資審査に受かるためにどのように借金を返済していくのかを記録したもの、いわば借金返済記録表」が返済計画書の主な役割といえます。
借金に借金を重ねることになるため、いまいちよく分からないかもしれません。しかし会社という組織を管理する上で、時として借金は必要なものとなるのです。
融資申し込みに役に立つことも
返済計画書があることで、新たに銀行などの金融機関や法人向けローン商品を扱っている金融会社への融資申込みの際に、金利交渉や返済履歴からの融資交渉に役立ちます。
たとえば以下のような感じです。
などの交渉が可能になります。
返済計画書が無ければこのような交渉をすることができません。
もし書類を用意することができず、いい加減な数字を言ったり嘘をついたとしても、その言葉を素直に聞き入れるほど金融機関のスタッフは素人ではありません。必ず証拠となる数字の提出が求められます。
また嘘が判明したときには信用を失ってしまうため、その後の融資は大きなマイナスの影響を与えることになるでしょう。
返済計画書の作り方
ここからは返済計画書の作り方について説明します。
ポイントになるのはシンプルに作りすぎないとう点です。そもそも返済計画で重要なのが以下の4つとなります。
- 借入金の金額
- リース代金
- 金利方式による借入残高の推移
- リース代金の推移
最低限この4つの表を連動させて作ることで、銀行や金融会社の担当者に対し好印象を与えられることでしょう。
借入金の金額&リース代金
借入金の金額とリース代金の金額は別のシートに作っておくとよいでしょう。書式は見やすければ縦書きでも横書きでも構いません。
項目を記載
借入先の金融機関名や支店名、融資商品名と金利、借入した金額などを返済金額の記録部分の上部へ配置します。
これは見やすい場所で問題ありませんが、なるべく借入記録と近い場所に配置しておくとよいでしょう。この数字が返済計画表の軸となります。
借入条件の返済方法とは、当座預金引落や現金払いといった意味ではなく、返済時の利息が加算される方式のことです。
後ほど解説しますが「元金均等返済」もしくは「元利均等返済」、どちらの返済方法であるのかを入力します。
返済回数や措置回数などを記載
次に、実際に返済した回数と据置した回数、借入実施月と返済開始月を記載します。
あとは返済元金や返済利息を計算し、それぞれの箇所を埋めていきましょう。元金均等返済の場合と元利均等返済では計算方法が異なるため注意が必要です。リースも同じようにリース料率を計算して返済元金や返済利息、返済合計と残高を入力します。
借入件数やリース件数が多い場合は、借入とリースで別々のシートで管理した方がわかりやすいでしょう。
元金均等返済と元利均等返済の計算方法
返済計画書を作成するときに重要となるのが「元金均等返済と元利均等返済のどちらの方式での返済なのか」という点です。計算方法が異なるためです。
元金均等返済は、返済元金が均一で利息金額と返済合計額が変動する返済方法です。元利均等返済は、返済合計額が毎月同じ金額で残高によって元金と金利が逆転していく返済方法となります。
参照 返済方法の種類と違いを解説!「元利均等返済」「元金均等返済」「残高スライドリボルビング」の違いとは
それぞれの計算方法は以下です。
元金返済額=借入金額÷返済回数
利息返済額=直前のローン残高×月利
毎月返済額=元金返済額+利息返済額
毎月の返済額={借入金額×月利×(1×月利)返済回数}÷(1+月利)返済回数-1
利息返済額=直前のローン残高×月利
元金返済額=毎月の返済額-利息返済額
それぞれの数値を計算式に当てはめ、それぞれの金額を出し、返済計画書へ記入しましょう。
エクセルで作る場合は、元金均等返済と元利均等返済、それぞれの計算式を入れたシートを、個別に作成してから数値をコピーアンドペーストするとよいでしょう。
返済計画表を効果的に運用するための注意点
返済計画表は新規借入時の書類としても有用ですが、本来の目的である返済関連の情報を一目で確認する目的の方が会社の資金繰りに効果的です。
効果的に運用するためにはいくつかの注意点があります。
資金繰り表と一緒に週ごとに確認する
資金繰り表と返済計画表は2つで1つの書類だと考えましょう。
どちらか一方だけでは、効果的に資金繰り表と返済計画表を運用することができません。そして返済計画表に関しては、そこまで頻繁に修正があるものではありません。
ところが資金繰り表は、売上金などの予想誤差が発生するため、できれば週ごとにチェックしたほうがよいでしょう。そのときに一緒に返済計画表も見直すため、この2つはセットであり、セットにすることで自社の資金繰りを把握しやすくなるのです。
新規借入が発生した場合は表を追加する
新しく借入を行なった場合には、返済計画表に追加します。たとえ金額が低くても返済しているという証拠書類にもなるため、新規借入時は表を追加しておきましょう。
据置や繰上げ返済があった場合には修正を行なう
借入中やリース中であっても、リスケや繰上げ返済などの影響で次のようなことが起こります。
- 返済が一定期間ストップする
- 返済額が変更になる
- 利率が変更になる
- 繰上げ返済で総借入金額が変わる
返済条件などの変更があった場合、返済計画書を最初から作り直すことになります。
手間はかかりますが、自社の資金繰りのため、そして倒産を防止するという意味でも重要な作業です。
返済計画書を効果的に活用して自社の資金繰りを安定させよう
返済計画書は資金繰り表と同じように、会社の資金繰りを管理する上ではとても有用なツールです。
効果的に活用することで、計画的な設備投資などが可能になります。また資金繰りが悪化した場合の対処も早くなるでしょう。
資金繰り悪化後には資金調達は難しい
資金繰りが悪化してから行動を起こすのと、悪化する前、悪化しそうだなと感じたときに行動を起こすのでは資金調達の成功率は大きく変わります。
それは資金を提供する側としては、資金繰りが悪化してしまった会社よりも、悪化していない会社にお金を貸した方がリスクが少ないためです。
このようなことがあるため、事前に資金繰り悪化の予測をする上でも返済計画書を上手に活用するとよいでしょう。
専門家による財務診断もアリ
税理士や会計士といった専門家の意見も聞いてみるとよいでしょう。
彼ら士業、とくに認定支援機関に認定されている士業は多種多様な業種の財務を見てきています。その中には同じように借入金の返済をしてきた事業者もいたことでしょう。
その一連をサポートしてきているため、どのような行動がベストなのか指南してくれることでしょう。
参照 財務診断とは?的確で効率的に分析するためには5つの視点が大切(外部サイト)