売掛金とは「会社間の信用取引において、約束手形が発生しない掛取引で代金を支払われる権利」のことを指します。
簡単にいうと売掛金とは、「納品した商品やサービスの代金を後で受け取れる権利のこと」です。
納めた商品代金であるため、本来はもらって当然のお金なのですが、支払い予定日に支払いがされなかったり、いつまでたっても支払われないというという問題が起こってしまうことがあります。
つまり売掛金が未回収の状態になってしまうのです。
その問題をそのまま放置していると、いつまでも利益を得られない状態となり、会社の資金繰りが悪化してしまい、会社存続の危機につながります。挙句の果てに「倒産」にいたってしまう可能性もあります。
売掛金はあるのに、つまり本来ならばもらえる予定のお金があるはずなのに、入ってこないがために倒産してしまう「黒字倒産」が近年増加しています。
また売掛金問題が発生すると自分の会社だけではなく、取引している会社に対して買掛金の支払いができなくなります。自分の会社が倒産することでドミノ倒しのように関連会社が倒産する可能性もあります。「連鎖倒産」と言われるものです。
今回は、売掛金問題を解決するための2つの方法として「売掛金を回収すること」と、「売掛金を資金化すること」を紹介します。
目次
売掛金とは?意味や他の取引方法との違いを学ぶ
売掛金について基礎知識を持っておけば、売掛金の支払いが遅れたり、売掛金を回収できなかったりといった問題が発生した時にも正しい対処ができるようになります。
売掛金問題を放置しておくと最悪の場合、会社を倒産させてしまうリスクがあります。売掛金の意味や他の取引との違いを理解し、万が一のトラブルにも対応できるようにしておきましょう。
売掛金の定義 売掛金とは売り上げをもらう権利のこと
売掛金とは会社同士の取引において、その場で代金の支払いがされず、後日支払いを受けられる権利のことを指します。
売掛金というと、そのもの自体がお金のように思えるかもしれませんが、お金をもらえる権利のことを言います。売掛債権を言うこともあります。売掛金の代金が自分の会社へ入金されたタイミングで、売上げ代金として会社の経理に計上されます。
お金そのものではなく、「売り上げや商品代金をもらう権利」のことをいう。
売掛金と手形は似ている
売掛金の話をする上で、手形の話も出しておきたいと思います。この2つは非常に似ているものであり、どちらも売掛債権です。
取引先から売り上げをもらう際、支払いを現金でもらうときには「売掛金」、手形で支払いを受ける際には「約束手形」となります。
売掛金と手形は「掛取引で発生する」という意味では共通していますが、現金に換えるための方法など、3つの大きな違いがあります。
法的拘束力
- 売掛金=取引先との信用取引になるため法的拘束力が弱い
- 手形=取引先と銀行、自分の会社の3者での取引になり、銀行法による法的拘束力が強い
手形の方が売掛金よりも法的拘束力は強くなります。
法的拘束力とは、もし代金の支払いがされなかった場合に、法律によってなんらかの「罰」が与えられる力のことです。売掛金の場合、たとえ支払いが遅れたとしても、法律による罰則はすぐに発動しません。売掛金をもっている企業が裁判所などに申立てをしないかぎり、法律が介入することはないのです。
一方、手形取引の場合は「銀行法」という銀行の法律が介入します。売掛金のように、代金を受け取る権利を指す手形を「約束手形」といいます。
約束手形は銀行に持って行くことで代金を支払ってもらえる「有価証券」です。もし、約束手形を銀行に持って行き代金を受け取ろうとしたのに、手形を発行した取引先の口座に代金が振り込まれていなかった場合には、銀行法により「不渡り」になってしまいます。
不渡りを半年間で2回発生させると、取引先は銀行との取引が2年間強制停止されてしまいます。銀行を解約して他の銀行と契約ということもできません。つまりある意味では、銀行業界のブラックリストに載るような状況になってしまうのです。事業者にとっては大きなデメリットとなってしまうのです。
支払期日
- 売掛金=30日~60日
- 手形=30日~120日
売掛金よりも手形の方が、支払期日を長くすることができます。
支払う側であれば支払期限まで時間があるため、資金に余裕を持って取引できるという意味では便利です。しかし手形で取引を行なうためには、手形発行に必要な「当座預金口座」の管理手数料や当座預金口座開設手数料などのコストが必要となります。
コスト面を考えると、支払期日が30~60日での期日となる売掛金の方が扱いやすいのです。
資金化の方法
- 売掛金=売掛債権担保融資、ファクタリング
- 手形=手形割引
資金化の方法は手形の方が少し複雑です。支払い期日の前に第三者へ譲渡し、期日までの利息や手数料を差し引いた金額で換金する「手形割引」という資金化方法があります。この手形割引は資金化に伴う手数料が比較的安いことがメリットです。
デメリットとして、取引先の当座預金口座に支払うべきお金が入っていないことで手形が不渡りになってしまい、手形の額面の支払い責任を求められることが挙げられます。手形を担保にして融資を受けているため、その手形が不渡りになると担保を預けている銀行に損害が及びます。
銀行は損害を防ぐために、手形割引で資金を提供した会社へ、手形割引で支払った代金を請求するのです。こうした仕組みを「買戻し」といいます。
ファクタリングは、売掛金という「権利」をファクタリング会社という売掛金買取専門会社へ売却して資金を得る方法です。権利ごと売却するため、もし取引先の経営状況が悪くなって売掛金が支払えない状況になったとても、自分の会社がその代金を支払う必要はありません。
ファクタリングには手数料が発生しますが、不渡りのリスクごと売却できるため、資金力が低い中小企業にとっては、利用しやすい資金化方法の1つです。
売掛金問題は「支払遅延」と「回収不能」が原因だ!
売掛金に関する問題が起こる主な原因は2つです。
- 支払い遅延・・・取引先からの売掛金の支払いが遅れてしまうこと
- 回収不能・・・取引先からの売掛金の支払いされないこと
売掛金とは売り上げをもらう権利が発生しているだけです。自分の手元に入ってくるまでは利益は確定しないのです。そして会社間で取引を行っていると、相手の会社の都合により売掛金が入って来ないケースも発生することがあるのです。
売掛金の支払遅延が起こる3つの理由
大口小口にかかわらず、取引先から売掛代金の支払いが遅れることで資金繰りが厳しくなっていきます。
売掛金の支払い遅延が起こる理由としては、主に3つ挙げられます。
取引先にお金がない
取引先にお金がないというのは支払いたくても支払うお金がないということです。つまり取引先の資金繰りが悪化している可能性が考えられます。
たとえば取引先にも取引先があります。こちらが取引先からの入金を待っているのと同じように、取引先にも別の取引先があり、そこからの入金を待っている可能性があります。
会社の取り引きというのは、複数社が関係して成り立っていることが多いです。このつながりの中のどこか1つの会社が経営不振に陥ってしまうと、自分の会社や取引先といった関連会社も倒産してしまう「連鎖倒産」が発生する可能性があるのです。
A社はB社と取引をしている。B社はC社と取引をしている。
C社からB社にお金が入ってこない。そのためB社はA社にお金が支払えない。
といった「下請け」という状態です。元請け会社、下請け会社、孫請け会社という言葉を聞いたこともあるでしょう。
C社が倒産してしまうと、その影響はB社へ。B社が倒産してしまうと、その影響はA社へと連鎖的に続き「連鎖倒産」が発生する可能性があるのです。
取引先が支払いを拒否している
取引をしたにもかかわらず、支払いをしたくないという理由で売掛金の遅延が起こる場合もあります。「仕事をあげてるんだから、ちょっとくらい遅れても大丈夫でしょ」と下請けいじめともいえる会社も存在するため注意が必要です。
下請けいじめなど、「優先的な立場を利用した不利益になる取引」は下請法という法律で厳しく罰せられます。公正取引委員会や中小企業庁に通報して法的措置をとってください。
親事業者にあたる会社は、下請法により遅延利息の支払義務が定められています。支払いがされていないことにかッとなって、取引先に怒鳴りに行くのではなく、冷静にしかるべき対処をしましょう。
支払期日までに支払わなかった場合は、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)の60日後から、支払を行った日までの日数に、年率14.6%を乗じた金額を「遅延利息」として支払う義務。
取引先が支払いを忘れている
取引先が売掛金の存在を忘れていて、支払いを忘れていることも考えられます。請求書の発行や受取は確認していたものの、支払い処理を忘れていたということも起こる可能性はゼロではないのです。
もし、取引先が支払いを忘れているような状態なのであれば、商談などのついでに支払いの確認の意味で打診してみてはいかがでしょうか?
売掛金の支払いができないと判断したら
取引先からの売掛金の支払いが受けられそうにもないと判断したら、対処法は2つです。
まずこの2つの選択肢となります。単純に支払いが遅れているだけなのか、それともそもそも支払うためのお金がないのかにもよって状況は変わってくることでしょう。
取引先からの入金を待つ
これはあくまでも自社に資金力があればの話ですが、期日を伸ばせば売掛金が入金されるケースもあります。
取引先も代金の未払いなんて恥ずかしいことですし、問題を大きくしたくはありません。
もし期日を伸ばすことができるのであれば、相手に貸しを作ることもできます。この貸しが将来的に自分に返ってくる可能性もあります。
支払い督促を行う
支払期限を過ぎても支払いがない場合、督促状を出せます。督促状とは、裁判所の書記官が発行する代金の支払いを命じる文書のことです。
取引先が支払わずに放置していると、裁判所の権限によって、強制執行などの法的措置が行なわれます。公共料金の支払いが数ヶ月遅れたとき、いつもとは違う色の封筒が送られてくるように、売掛金の場合でも同様の催促ができるというわけです。
取引先と和解交渉を行なって支払いの確約をとる方法もあります。交渉によって確約を取る場合、弁護士などに依頼して「公正証書」を作成するとよいでしょう。公正証書があるにもかかわらず、支払遅延や繰り返されるようであれば、資産の仮差し押さえや強制執行などの法的措置を行なうことも検討しましょう。
完全に回収不能と判断した場合の対処法
どう考えても売掛金が回収不能になってしまった場合には、主に次の3つの方法での対応を考えましょう。
法的手段を使って回収を行なう
どうしても支払いがされない場合は、法的手段をとることも検討しましょう。売掛金が60万円以下の場合には簡易裁判所で少額訴訟ができます。一般的な裁判よりスムーズに回収できる可能性が高いです。
一般的な裁判をした場合、どうしても時間がかかります。その間、取引先の資金繰りがさらに悪化し倒産でもしてしまったら、売掛金は全く回収できなくなってしまうのです。また、裁判を起こすとなると裁判費用や弁護士への依頼料などのコストも掛かるため、裁判まで検討する場合は、どうしても回収できなくなってしまった場合の最終手段として考えておきましょう。
回収代行業者に依頼する
売掛金を回収したいけれど、どのような方法をとれば良いのかわからなかったり、回収に割いている時間がなかったりといった時に便利なのが回収代行業者です。回収代行業者とは、法務省から認可を受けた特別な業者のことです。テレビドラマなどで目にする「取り立て屋」ではなく、法律にのっとった回収方法で売掛金を回収してくれます。
回収代行業者や弁護士のような外部業者を頼ることは有効な手段です。支払い遅延が起こっていて、回収不能になる可能性が高いのであれば、外部業者に依頼した方が回収できる見込みは高くなります。
注意すべきは、外部業者に依頼する手数料が発生するという点です。自分自身で格安でできる回収手段であったとしても、外部業者に依頼することで依頼手数料が発生してしまいます。売掛金の金額と依頼手数料のバランスを考えながら依頼を検討しましょう。
参照 売掛債権のサービサーとは債権回収のスペシャリスト 未回収の債権は民間の回収業者に依頼もあり
回収不能になる前に対処すべき
法的手段を取る方法も、債権回収代行業者に依頼する方法もありますが、そもそもその前の段階で何としてでも回収するべきです。どんなに取引先から嫌な顔をされてもです。
しかし倒産などで、回収が不可能なるケースもあるため、もし法的措置を決めたら素早く行動しなければなりません。なぜなら措置をとる前に取引先が破産手続きをしてしまった場合、売掛金の回収は不可能になってしまうからです。
ファクタリングで売掛金を売り払えばお金が手に入りリスクを回避
もし取引先から売掛金が入って来ないようならば、考え方を変えることもできます。
売掛金自体を売却してしまうのです。売掛金を売ってお金に替える方法がファクタリングです。
参照 ファクタリング
ファクタリングとは、売掛金の買取専門業者に売掛金を売却して現金を手に入れる方法です。ただし、支払遅延が起こっていたり、回収不能になっていたりする売掛金の売却はできません。支払期日前の売掛金のみが買取可能です。
支払遅延や回収不能になっている売掛金を売却したい場合は、法務省認可の回収代行業者に相談してください。業者によっては不渡り寸前の売掛金を売却できる可能性があります。
ファクタリングの上手な活用方法とは、支払期日がまだ来ていない売掛金を売却して、資金を調達しつつ資金ショートなどの資金繰りの悪化を防ぐことです。
ファクタリングには2つの取引方法があります。
- あなたとファクタリング会社の2社間で契約する「2社間ファクタリング」
- あなたと取引先、ファクタリング会社の3社間で契約する「3社間ファクタリング」
ファクタリングにはメリットとデメリットがあるため、それぞれを理解して利用しましょう。
ファクタリングのメリット
- すぐに資金化が可能
- 審査が通りやすい
- 保証人や担保がいらない
- 売掛金が不渡りになってもお金を返さなくてよい
すぐに資金化が可能
ファクタリングは銀行の事業性融資や行政の助成金などと違い、申し込んでから資金を調達するまでのスピードが早いです。ファクタリング会社によっては申し込んだ当日に資金化できることころもあります。支払いまで時間がないという場合でも申込みできることが魅力です。
審査が通りやすい
ファクタリングは銀行の事業性融資を受けるよりも、比較的審査が通りやすいことで知られています。ファクタリング会社が審査で重視するポイントは次の2つです。
- 売掛金が確実に存在するか?
- 売掛金が支払期日に確実に入金されるか?
ファクタリングには融資で発生するような「毎月の返済」がありません。売掛金という「権利」を売却することになるため返済が発生する借金ではないのです。
ただし、売掛金の代金が取引先から入金されたタイミングで、売却した売掛金代金の全額をファクタリング会社に送金しなければなりません。
もし、実際に売掛金が存在しなかったり、売掛金が支払期日に入金されなければ、ファクタリング会社の損になってしまいます。だからこそ、ファクタリングの審査では架空の売掛金ではないかという点と、売掛金が確実に入金されるかという点が重視されるのです。
資金力の乏しい中小零細企業でもファクタリングを利用できます。赤字経営や法人税などの滞納があったとしても利用できる場合もあります。ファクタリングは大企業や業績のよい会社だけでなく、まじめにコツコツ頑張っている会社にとっても希望の光になるものなのです
保証人や担保がいらない
ファクタリングでは保証人や担保が必要ありません。銀行の事業性融資では申込みの際に、保証人や担保が必要な場合があります。返済ができなくなった場合に、保証人に返済してもらったり、担保を売却して返済金に充てたりするのに必要です。
ファクタリングはお金を借りることではありません。売掛金という権利を売却して資金を調達する方法です。返済義務が発生しないため、保証人や担保も必要としないのです。
売掛金が不渡りになってもお金を返さなくてよい
売掛金の入金が期日に支払われなかったとしても、手形割引のような「買戻し」が発生しないのもファクタリングのメリットです。
ファクタリングは売却した売掛金が不渡りになったとしても、調達したお金を返却しなくてもよいという契約が一般的です。「取引先が倒産して回収不能になってしまった」という最悪の事態も、ファクタリング会社を利用していれば回避できます。
ファクタリングのデメリット
ファクタリングはメリットばかりではありません。デメリットもあります。
- 手数料が発生する
- ファクタリング会社によっては債権譲渡登記が必要になる
- 悪質な業者の可能性がある
手数料が発生する
ファクタリングは「すぐに資金を手にできること」や「不渡りリスクごと売却できる」という利用者にとってのメリットがありますが、ファクタリング会社にとっては不渡りリスクを抱える「負担」になってしまいます。その負担分として、融資に比べて手数料が高めに設定されているのです。
手数料は2社間と3社間によって異なります。手数料は融資ではないため、利子率上限を決めている「貸金業法」が適用されません。そのため、ファクタリング会社同士の相場によって決められているのです。
- 2社間…売掛金総額の15%~30%
- 3社間…売掛金総額の5%~10%
あくまでも相場です。ファクタリング会社によって、相場内で自由に設定しているのが現状ですが、相場を超えて請求されたとしても違法ではないのです。
ファクタリング会社によっては債権譲渡登記が必要になる
ファクタリング会社によっては、債権譲渡登記が求められる場合があります。登記とは、権利など目に見えないものの「所有者」を法務局に届け出て法律的に証明するための手続きのことです。登記手数料が7,500円~15,000円程度かかります。
登記を司法書士などに依頼すると、それ以上のコストがかかってしまいます。3社間であれば、債権譲渡登記は不要なケースもありますが、ほとんどのファクタリングには債権譲渡登記が必要だと思っておきましょう。
悪質な業者の可能性がある
ファクタリング会社の中には悪質な業者が存在します。
ファクタリング業は法的な整備が貸金業よりも進んでいません。手数料の上限値などが良い例です。法律の穴をついて、相場よりも遥かに高額な手数料で商売をしている業者もあります。
手数料が高いならば利用しなければ良い話ですが、広告などに手数料を低く提示し、契約のタイミングで出された手数料%が広告に掲載されていた手数料よりも遥かに高い金額を出されるのです。契約を断ろうとすると、暴力的な対応になったり、2社間であれば取引先に債権譲渡の事実を密告するなどの脅迫行為をして契約を迫られたりすることもあるようです。
「すぐに資金化できるなら」という安易な考えでファクタリングを利用すると、思わぬデメリットを産む可能性もあるのです。
売掛金を売却することも問題解決の1つの方法である!
売掛金問題の解決策としてファクタリングは有効な手段の1つです。取引先から売掛金の回収ができないのであれば、他の取引先からの売掛金を売却することで資金繰りが悪化を防げます。
売掛金問題を理解し、なぜ起こるのか?どうすれば回収できるのか?回収できなければどうするのか?を的確に判断することが売掛金問題を解決するために重要なのです。
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