売掛金の回収で問題が発生した場合には、内容証明郵便が有効です。
内容証明とは、文書内容を第三者である「郵便局」が証明する「謄本」のことです。謄本は「元となる本や契約書などの内容をすべて書き写した文書」のことで、戸籍謄本や登記簿謄本などのように法律的な証明にもなる文書を指します。
裁判所の特別送達(命令書など)に比べると法的な拘束力は弱いですが、内容証明に書かれてある文面次第では、取引先に支払いのプレッシャーを与えられます。
これによりまずは相手に対し本気度を示すことができます。相手にもよりますが、内容証明を受け取ることで未払いだった売掛金を支払ってくることもあります。もし内容証明を取引先に送っても売掛金の支払いをしてこない場合、そして裁判に持ち込んだ場合には証拠となる得ます。
そのためにも内容証明は非常に重要なものです。このことからも正しい書き方を知る必要があるのですが、支払い催促のための内容証明には記載すべき文言や書式など細かいルールがあります。
目次
売掛金回収の内容証明とは意思表示と証拠づくり
内容証明とは郵便物の一種で、文章の内容を証明してくれる「謄本」の性質をもつ郵便物です。郵便法第48条によって定められている法的書類です。
内容証明の取扱いにおいては、会社において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。
参照 内容証明(郵便局)
注意すべきは、内容証明は文章の内容を証明するだけであって、文章の内容が正しいか正しくないかということを証明するものではありません。
内容証明を送ったからといって、すぐに売掛金が回収できるというわけではありませんし、そもそも回収できるかどうかさえも分かりません。あくまでも内容証明を送ることで、その後に起こる可能性のある裁判などの証拠となるという位置づけです。見方を変えると相手に本気であるという意思を伝えることにもなります。
また、内容証明郵便は現金書留と同じ一般書留扱いが原則です。この原則も郵便法で定められています。
引受時刻証明、配達証明、内容証明及び特別送達の取扱いは、書留とする郵便物につき、これをするものとする。
一般書留扱いとは、引き受けから配達までの送達過程を記録し、郵便物等が壊れたり、届かなかった場合に実損額を賠償する郵便物のことです。つまり、取引先に送った内容証明は確実に手渡されるということです。取引先が「そんな書類は受け取っていない」と裁判などで言い逃れができません。
内容証明で証明される3つのこと
内容証明の基本として、証明される文章の項目は次の3つです。
- 差出人
- 受取人
- 文書の内容
届いた事実や配達された年月日については、必ず配達証明書を発行してもらいましょう。裁判などが起こった場合、その時系列を証明しなければなりません。配達証明書があることで、内容証明を送ったという証拠書類になり、売掛金回収で裁判などを行なう際に重要な証拠資料になります。
内容証明郵便で売掛金の回収する4つの効力
売掛金回収で内容証明を利用した場合の効力には、主に次の4つが挙げられます。
- 証拠書類としての効力を持てる
- 売掛金を支払わない取引先にプレッシャーをかけられる
- 時効中断の効力がある
- 確定日付を得られる
証拠書類としての効力を持てる
証拠書類としての効力がある内容証明は、誰が誰に対してどんな内容の文章を送ったのかを証明するものです。
たとえば取引先が「これまで請求されたことがない」や「内容証明を受け取っていない」という主張をしてくる場合があるのですが、そのような主張を防ぐことができます。
売掛金を支払わない取引先にプレッシャーをかけられる
内容証明のもつ「謄本」という特殊な特徴は、裁判が起こった際に効力を発揮します。
一般的には「内容証明の送付が最終通告だ」という意味合いで使われます。また、文章の内容や一般の手紙との違いからも尋常ではない事態であることが印象付けられるのです。
ちなみに、一般の手紙とは異なり、以下のような仕様となっています。
- 郵便局の配達員が直接担当者(受取人)に手渡す
- 書式の規則があり、文章の体裁が整っている
- ページのつなぎ目に契印がされている
- 郵便局の認証司による認証印が押印されている
- 差出人と受取人の住所や名称が記載されている
一般の手紙とは異なり、ある意味しっかりとした文章形式になっているため、受け取った相手にプレッシャーを与えることができるのです。
注意すべきは内容証明の発行は規模の小さな郵便局ではできないことです。大きな郵便局で「認証司」という資格を持った郵便局員がいる局でしか発行できません。もし、最寄りの郵便局で内容証明を発行できるか不明な場合は、郵便局まで問い合わせて確認しましょう。
時効中断の効力がある
請求書には時効があり、時効が成立してしまうと売掛金や未収入金といった債権の回収ができなくなってしまいます。しかし内容証明を送ることで、時効の経過を中断する効果があります。
参照 請求忘れの時効はいつまで?時効期限になると回収不能になる!
確定日付を得られる
法律上では内容証明を送付した日付が重要な意味を持っています。
とくに売掛金といった債権の回収において、裁判になった場合には、いつ送ったのかという点が争点になる場合もあるのです。
売掛金回収で内容証明を利用する際の基本ルール
売掛金を回収を目的として内容証明を利用する際にはルールがあります。
内容証明文を書く上での決まりを紹介していきたいと思います。
守りたい10のこと
内容証明を作成する際には、非常に細かいルールが定められています。
そして作成した後にも、郵便局のスタッフに細かくチェックされます。そのため少しでもルールに反する書き方を行っていると郵送することができません。
用紙はA4もしくはB4
用紙サイズや紙の材質は原則自由ですが、一般的にはA4もしくはB4のコピー用紙が使われています。
文房具店などに内容証明専門の用紙が販売されてはいるものの、わざわざ購入して使わなくても問題ありません。
ただし、内容証明文書は5年間の保存義務があります。FAXなどで使われている感熱紙は適しませんので注意しましょう。
枚数は制限なし
内容証明の文章が長くなってしまう場合、枚数は何枚になっても問題はありません。
複数枚の内容証明の場合は、すべてのページのつなぎ目にまたがって押印(契印)をしてください。これは内容証明の法的ルールでもあるため、ページの上部などに押さないように気を付けましょう。
文字数・行数にルールあり
文字数と行数にも細かいルールがあります。縦書きと横書きで文字数と行数が異なります。
- 縦書き:1行20次以内、1枚26行以内
- 横書き:1行20字以内、1枚26行以内
- 横書き:1行13字以内、1枚40行以内
- 横書き:1行26字以内、1枚20行以内
一般的には横書きの「1行26字以内、1枚20行以内」のルールを使われることが多いようです。空白や空行は文字数や行数としてカウントしません。ただし、最終ページの下部に郵便局認証司の認証印が押せるスペースは開けておきましょう。
このルールはあくまでも紙ベースの内容証明に適用されます。電子内容証明の場合は文字数や行数の制限がありません。
使用可能な文字種は決められている
内容証明は使用できる文字種も決まっています。
実際に書いたことのある人であれば実感したと思いますが、これが意外と分かりにくいのです。
- ひらがな
- カタカナ
- 漢字
- 数字
- 一般的な記号
- 句読点
英字に関しては固有名詞(人名や地名、会社名や商品名など)のみ利用可能です。
()や「」は1組で1文字です。ただし、①のような〇などで囲んだ文字に関しては〇で1文字、1で1文字になります。つまり①=2文字としてカウントするということです。
標題は自由
売掛金を催促するという意味が伝われば、どんな標題でもかまいません。
売掛金回収催告書や時効中断措置に関する文書などでも意味が伝わればOKです。
差出人と受取人は必須!
差出人と受取人の住所と氏名の記載は必須です。
記載する内容は内容証明の封筒に書かれている内容と一致していなければなりません。
文面の中で差出人の氏名の下や横に押印することが一般的な慣習です。しかし法的規定ではないため、特段に押印しなくても問題はありません。
文章に前文・後文は必要ない
内容証明は手紙ではないため、「初秋の候~」といった時候のあいさつや「敬具」といった文末の結び言葉は省いてください。
本来は売掛金を催告したりする「強い意味合い」をもつ内容証明ですが、和解協議などの「お願い」の場合は取引先の心情を察して、あいさつを入れることもあります。書かないことが正というわけではないことを覚えておきましょう。
契約書のコピーなどの同封物は入れない
契約書のコピーや支払明細のコピーなど、文章を補足する意味合いでの書類などは同封してはいけません。
内容証明の文書しか送付できません。
もし必要であれば、内容証明の文中に「別郵便で契約書の写しを同封させていただきました。」などを記載してから送付することは問題ありません。
書く筆記具は消えないもの
文章を記入するのはボールペンでも構いませんし、パソコンで作成してインクトナーで文章を作っていても問題ありません。
ただし使用してはいけないのが「鉛筆」と「消せるボールペン」です。5年間の保管義務があり、鉛筆や消せるボールペンでは保管に耐えられないためです。
3部作成
内容証明は自分用の控え、取引先用(送付用)、郵便局の保管用と最低3部は作成してください。
文章の内容が同じであれば、コピーでも問題ありませんが、ページが複数に渡る場合のつなぎ目の押印は忘れないようにしてください。
内容証明の本文の書き方にルールはある
以上のように、内容証明を書くためにはさまざまなルールがあります。
時系列から大前提、小前提、結論と相手が読んだときに伝わるような文章構成にすることが大切です。注意すべきは感情的になって文調が乱暴にならないようにすることでしょう。捉え方によっては脅迫や名誉棄損で訴えられてしまうケースもあるためです。
売掛金の回収などの要求に関しては「法律の〇条に基づき」というように、明確な根拠や理由を記載します。債権の回収が目的の場合には、期限を明記しておくことが重要です。支払期限を守らなければ法的措置を行なうなどの対抗手段を明記してください。
ただ正直、書き慣れていない人は難しいかと思います。そのため一番シンプルな方法としては、インターネット上でひな形を探し参考にすることです。また弁護士や司法書士、行政書士に作成依頼することも可能です。金額としてはピンキリであり、約3000円ほどから作成をしてくれる事務所もあるようです。
内容証明を出す際には、郵便局のスタッフがチェックを行います。形式に合っていなければNGを出されてしまいます。どの部分がおかしいのかも教えてくれます。
もし不安であったり手間を減らしたいのであれば、士業に作成を依頼するのも1つの方法だ。
内容証明には2つの大きな意味がある 意思表明+裁判の証拠
売掛金を回収できないときに内容証明を取引先に送るのことは2つの大きな意味があります。
1つは本気で債権の回収を考えていると取引先に知らせることができること。もう1つは、万が一裁判になった時に証拠になるということです。
売掛金は支払われて当然のお金ではあるのですが、相手によっては支払いを無視してくるケースがあります。そのようなときに内容証明を出すだけで、売掛金が入金されるということがあるのです。それは相手が本気であり、もしかしたら裁判を起こされてしまうと考えるためです。
裁判を起こされたら届いた内容証明が証拠となり、さらに細かく調べられれば買い掛け金を支払っていないと判明し、裁判に不利となることでしょう。側が明らかに悪くなってしまうことがわかっているのです。
もし自分で作るのが難しいのであれば、費用はかかってしまいますが弁護士などに依頼することも1つの方法でしょう。
内容証明は無視されてしまうこともある
内容証明を取引先に出しても、無視されたり受け取りを拒否されることがあります。
冒頭の「売掛金回収で内容証明を利用するときの4つの効力」でもお話しした通り、効力はあるのですが、法的拘束力があるわけではありません。相手に本気であるということの証明をするということと、その先に裁判を行うのであれば証拠になるということです。
弁護士の介入で事態が動くことも
もし内容証明を送っても何の反応がない場合、そしてそれでも売掛金を回収したいと考えている場合には、弁護士に相談してみるとよいかもしれません。おそらく弁護士は、督促状を取引先に送ることになるかと思います。
ここで取引先としては、弁護士が介入してきた事実を知るわけです。この段階で売掛金の支払いに応じてくる可能性があります。
内容証明を送っても、弁護士からの督促状を送っても、無視してくるケースもあります。その場合には訴訟を起こすことになるでしょう。ただし訴訟を起こすということは専門的知識が必要となりますし、さらには時間もお金も必要となります。
回収できていない売掛金の金額がどの程度かによって、訴訟をするかどうかを判断したほうがよいでしょう。
回収できない債権は弁護士や代行業者に依頼するという方法も
回収できない債権は、弁護士や債権回収代行業者に依頼するという方法もあります。
ただしこの方法は、思った以上に費用がかかってしまうケースがあります。債権金額よりも大きなお金が必要となってしまうこともあり、結果として金銭的にマイナスになってしまうことも十分考えられるのです。
ファクタリングを検討してみるのもアリ
そこでファクタリングを検討してみるという方法もあります。ファクタリング会社は売掛債権を購入してくれます。そのため債権回収をするために費用をかけるよりも、ファクタリングを利用するときに発生する手数料の方が安くなるケースもあります。
ただし注意したいのは、ファクタリング会社はどのような債権でも買い取ってくれるわけではありません。不良債権と判断された場合には買い取ってはくれません。しかし一度挑戦してみるのも良いかと思うのです。
もしファクタリングを利用することができない、そして何がなんでも売掛金を回収したいということであれば、弁護士や債権回収代行業者に依頼をするという行動に移っても良いかもしれません。すべてとは言いませんが、債権回収代行業者の中には不良債権の回収を業務としているケースがあるためです。
いずれにしても、「売掛金が回収できないかも」と感じた段階ですぐに行動に移すことが大切です。とくに訴訟は最終段階であり、さらにコストもかかるため、あまり良い方法とはいえないと思います。
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