債権回収を弁護士に依頼するときに必要な書類と依頼手順を紹介します。
なかなか回収できない売掛金や未収入金などの債権は、会社を経営する上では大きな悩みとなります。何度も督促の電話や書面を送っているにもかかわらず、一向に払う意志のない相手から債権の回収するのは難しいものです。
そんな回収が難しい債権を高確率に回収する方法があります。
それが弁護士に債権回収の依頼をすることです。
弁護士は売掛金や未収入金といった債権回収業務を行えます。法律を熟知しているためある意味「債権回収のプロ」なのです。必要なら法的な方法で強制的に取り立てます。
つまり弁護士に債権の回収業務を依頼することは、自社だけで回収業務をするよりも、売掛金を回収できる確率が格段に高くなるのです。
目次
債権回収を弁護士に依頼する際の手順と必要書類
弁護士に債権回収を依頼してから、回収できるまでの一連の流れです。
弁護士に債権回収を依頼するのは「敷居が高い」と思うかもしれませんが、そのようなことはありません。弁護士こそ「元祖」債権回収代行業者なのです。
過去、バブル崩壊やリーマンショックなどで不良債権が大量に発生したことがありました。その際、不良債権の処理スピードをアップさせようと制定されたのが「サービサー法」です。サービサー法とは、民間の債権回収会社に法務省が認可を与え、弁護士の代わりに債権回収業務ができるようにした法律です。
つまりそれまでは、債権回収代行業者といえば弁護士の専売特許だったわけです。
そもそもサービサー法で定められている債権回収代行業者は、弁護士が取締役でなければ認可されません。売掛金の回収業務を外注する場合には、必ず弁護士の関与が必要なのです。
1.弁護士を探す
一概に弁護士といっても刑事事件が得意な弁護士もいれば、企業案件や民事訴訟に強い弁護士などさまざまです。そのため債権回収に強い弁護士を探すことが大事でしょう。
弁護士事務所のホームページを見たり、弁護士会連合会や、弁護士会、法テラスなどに確認したりして、情報を得るとよいでしょう。
弁護士会や法テラスという言葉はあまり聞きなれないと思います。どちらも法律に関わる問題の手助けをしてくれる機関のことです。
弁護士連合会は弁護士会の集まりです。そして弁護士会では、自分の住所地に近い専門的な案件を扱う弁護士を検索できます。法テラスでは、弁護士の紹介もある程度おこなってくれますが、売掛金の回収遅延などで法的に何をすればよいか分からないという人のための機関です。
参照 法テラス(外部サイト)
「未回収の売掛金を回収したい」と伝えれば、仕事として引き受けてくれるかどうか、どのくらいの金額が必要なのかを教えてくれるはずだ。
2.相談・依頼
依頼したい弁護士を見つけたら、まずは弁護士事務所へ行き相談をします。
弁護士へ相談するときには基本的に相談料が発生します。1時間5,000円~1万円が相場とされています。初回の相談料は無料というところもあるため事前に問い合わせて聞いてみるとよいでしょう。
相談したからといって依頼する必要はありません。次の3つのポイントを元に契約するかを検討してみるとよいでしょう。
- 本当に信頼できるか
- 迅速に対応してくれるか
- 親身に相談になってくれるか
その上で弁護士に任せたいと考えるのであれば、債権回収業務を依頼します。依頼の際にはまず着手金を弁護士に支払うことになります。10万円~30万円が着手金の相場とされていますが、回収方法や売掛金の額によって異なる場合があります。
また弁護士によっては着手金を問題解決後に支払うケースや、そもそも着手金が必要なく、回収できた売掛金の何割かを成功報酬として受け取っているケースがあります。その当たりのことも相談した段階で確認しておく必要があるでしょう。
相談や依頼をする時点で必要な書類は次の通りです。
売買契約書・発注書・請求書
弁護士に依頼をする際、売掛金が確実に存在していることを証明できる書類が必要です。
売買契約書があればベストですが、ない場合は発注書や請求書で代用できます。
相手企業の未払金残高証明書
未払金残高証明書とは、取引先が作成する支払いの約束をおこなう文書のことです。
「現在、未払いになっている売掛金が〇〇〇万円あります。〇月〇日に必ず支払います」
といった内容の文書で、社印が必要な公的な書類になります。
未払金残高証明書は、支払いの約束という意味でも使われます。しかし本来は、決算期をまたいで期日を超えた未払いの売掛金を経費処理するために必要な書類です。決算時に、この未払金残高証明書を添付することで経費に計上できます。
注意点は、売掛金の回収遅延が起こっている場合、取引先の都合によっては発行してもらえないケースもあることです。取引先が故意に支払いを遅らせている場合は、かんたんに発行してもらえない可能性もあります。
もしもらえないのであれば、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
相手企業の決算書
売掛金の回収を進めていく上で、取引先の資産状況や財政状況を把握しておくことは重要です。契約時や支払遅延時には、取引先に対して決算書の提出を要求しましょう。相手が上場企業であれば金融庁が運営するEDINETで、非上場企業は『会社四季報』の非上場版で閲覧できます。
中小企業の場合、会社法の第442条によって決算書を債権者に開示する義務が定められているため、請求すれば手に入れられます。
3.最適な回収方法の検討
売掛金の回収にはさまざまな方法があります。相手企業との関係性や売掛金の額などを考慮して進めていきまましょう。
- 任意交渉
- 内容証明郵便
- 支払い督促
- 訴訟・裁判
- 強制執行
- 担保の実行
任意交渉や内容証明郵便などで相手が応じてくれない時は、訴訟・裁判になります。裁判ににおいて、法律のプロである弁護士がいるのといないのとでは、回収の是非も大きく異なります。
4.売掛金の回収
無事、売掛金の回収に成功したら、弁護士に対して成功報酬+経費を支払うことになります。
報酬額や経費は弁護士事務所によって異なりますが、相場は回収できた売掛金の10%~20%です。
経費は弁護士事務所や回収方法によっても異なります。実費や日当なども発生する場合がほとんどです。実費とは、回収業務で発生する経費のことで、交通費や通信費、裁判を起こす場合に、裁判所に納める手数料(納付金)などを指します。
債権回収を弁護士に依頼する際の費用
弁護士に債権回収を依頼するときに必要となる費用の項目は以下の通りです。
- 初回の相談料
- 依頼する際に発生する着手金
- 事務所外で業務行なう際に発生する日当
- 回収業務で発生する実費
初回の相談料
相談料は法律相談をした際に発生するコストです。初回のみ無料、最初の1時間は無料と設定している弁護士も増えています。相談料については、完全成功報酬型弁護士に限らず、通常の弁護士も取り入れている場合が多いです。
多くの場合、30分5,000円~10,000円程度が相場といえます。
事務所外で業務行なう際に発生する日当
大手弁護士事務所がテレビCMなどでアピールしている「着手金無料」という文言。着手金とは、要は前払いで必要経費が発生する費用です。債権が回収できてもできなくても、依頼をした時点で発生するコストになります。
着手金は、債権額割合で金額が決まることもあれば、依頼案件によって金額を設定されている場合もあります。
事務所外で業務行なう際に発生する日当
日当は、弁護士が事務所を離れて仕事をする際に発生するコストです。債権回収のために出張をしたり、裁判で出廷したりと、債権回収をする場合は事務所以外の仕事も多くなります。一般の弁護士の場合、半日分の日当だけで3~5万円が発生します。
回収業務で発生する実費
法的手段の際に必要な手続きや書類作成で経費が発生します。裁判になった際には裁判所に支払うための納付金や印紙代などが実費にあたります。
完全成功報酬型弁護士の場合は、これらの費用がすべて成功報酬に含まれるため、予定外の費用が発生しないというメリットがあるのです。
債権回収を代理人に依頼するメリット
債権の回収を弁護士に依頼するメリットには次のようなものがあります。
最適な回収方法を提案してもらえる
債権回収に強い弁護士は、さまざまな回収方法を熟知しています。債権回収業務は依頼人(債権者)によってニーズが異なります。
- 取引先とはできるだけわだかまりなく回収したい
- 早めにきちんと回収したい
弁護士は、取引先の状況や依頼人のニーズを汲み取った上で、その時に最適な方法で回収してくれます。
法的問題に対処できる
取引先が任意交渉や内容証明郵便でも応じてくれない場合、訴訟や強制執行などの法的措置をとることになります。
弁護士の豊富な法的知識で適切な法的回収処理をおこなってくれるのです。裁判に発展しても、弁護士がいるだけで勝訴できる可能性が高くなります。
取引先が訴訟中に財産隠しをする可能性も視野に入れて、相手が財産を動かせないようにする保全手続きなども速やかに実行します。
相手に本気度を伝えられる
取引先に返済能力があるにもかかわらず、なかなか売掛金を回収できないパターンがあります。長年の取引や付き合いで「なれ合い」の状態になっていたり、取引先から「見くびられて」いたりすることが考えられるのです。
そのような場合でも弁護士から通知が行けば、取引先に対して「なにがなんでも回収するぞ!」というあなたの本気度が伝わります。
「もしかしたら訴訟を起こされるかもしれない」と不安になり、早急に返済をしてくれる可能性があるのです。電話やメールで催促をしても、まったく反応が無い場合があります。そのような場合は法的回収をちらつかせることで、取引先に対するプレッシャーを与えられる可能性もあるのです。
内容証明や督促状も法的対処に含まれますが「弁護士」という肩書は取引先にとってのプレッシャー効果が高くなります。
スピーディーに回収できる
債権者と取引先で話し合いを続けていても、一向に話がまとまらず、時間だけを浪費していくことがあります。弁護士に依頼することで効率的に交渉が進む可能性もあります。取引先が交渉に応じない場合は、訴訟を含めた法律的に解決させる手段を使ってスピーディーに売掛金を回収してください。
精神的負担を軽減できる
売掛金の回収はお金がからんでいることもあり、精神的負担のかかる交渉になります。場合によっては相手との関係が悪化しかねません。そんなシビアな交渉も弁護士が代行してくれます。
円満解決が見込める
お金の問題とはいえ、良好な関係を築いてきた相手企業との関係性が悪化するのはできるだけ避けたいものです。弁護士に要望を伝えれば、円満解決に向けた回収方法を提案してくれます。
諦めかけていた債権も回収できる可能性が高まる
売掛金の回収に時間がかかっていると、回収するこちら側も半ば諦め気味になるものです。全額でなくても一部だけ返ってくればいいと考えている人も多いでしょう。弁護士に依頼することで、一部どころか全額回収できる可能性も高くなります。
債権回収を代理人に依頼するデメリット
債権回収を弁護士に依頼するデメリットには次のようなものがあります。
費用がかかる
弁護士に債権回収の仕事を依頼する上で最大のデメリットは費用がかかることです。第三者に仕事として依頼するため、費用が必要となるのは仕方のないことです。とはいえ少し高いと感じるかもしれません。
たとえば相手に内容証明郵便を送るだけでも5万円程度の費用が発生することがあります。訴訟ともなると、最低でも10万円程度が必要となることでしょう。
無事、売掛金が回収できた時には回収金額に応じた成功報酬を支払います。
60万円以下の少額の売掛金額であれば、少額訴訟なども有効です。60万円以下の支払請求については、少額訴訟を起こすことで一気に解決する方法もあります。ただし、基本的には法人ではなく、個人の利用を想定している制度であるため多用はできません。
相手との関係が修復困難な状態になる
弁護士に債権回収を依頼することで、相手に本気度が伝わることはメリットとして挙げられます。ところがこちら側が本気であると伝われば伝わるほど、良好な関係性を壊してしまう可能性もあります。弁護士を介するとどうしても相手が身構えてしまうためです。
ただしそもそも良好な関係であれば、売掛金を未払いは発生しませんが・・・。
相手方が破産する恐れがある
弁護士が間に入ることによって、相手を必要以上に追い詰めてしまう可能性があります。
返済することが困難なほど業績が悪化している場合、相手が破産という選択肢を選ぶ可能性が出てくるのです。破産されてしまうと、売掛金が1円も返ってこなくなります。相手の財政状況をよく見極めて、追い詰め過ぎないよう注意してください。
弁護士と意見が対立することがある
弁護士の仕事は依頼人の利益を守ることです。そのため債権回収に有効と判断すれば法的手段も辞しません。法的手段が依頼人の希望する回収方法とは異なる場合、弁護士と意見が対立することもあります。売掛金を確実に回収するという「目的」をブレさせないように、回収方法を検討してください。
しかし一番の目的は、未回収の売掛金を回収することだ。その目的を果たすためには、ある程度のデメリットにも目をつむる必要があるだろう。
ただし依頼人の話を聞き入れないような弁護士であれば、他の弁護士や回収業者に依頼するのも検討すべきだろう。
完全成功報酬型弁護士に依頼する場合の注意点
弁護士に債権の回収を依頼する場合、本来は相談料や依頼手数料、交通費などの経費などが発生します。回収業務によって数十万円~数百万円が発生します。
完全成功報酬型の弁護士が抱えるリスクとして、扱う案件で依頼人の希望にそぐわない結果になってしまうと報酬はゼロ、つまりタダ働きになる可能性があるのです。
逆に依頼する側としては、報酬を支払わなくてもよくなる可能性が生まれます。債権回収に失敗すれば、弁護士にかかる費用を節約できますし、回収できなかった債権を「損失」として経費に計上できます。
しかし、本当にそうなのでしょうか?完全成功報酬型だから「安い」のでしょうか?
完全成功報酬型弁護士の中には、報酬そのものを一般の弁護士よりも高く設定しているところもあります。完全成功報酬という仕組みを弁護士側の観点から考えていきましょう。
10件中8件成功!残りの2件で発生した費用が8件に上乗せされる?
完全成功報酬型弁護士に依頼して、債権回収に成功したとしても、他の依頼人の債権回収に失敗している場合、弁護士が手にできる報酬は実質1社分になります。たとえ10件の依頼があったとしても8件しか成功しなければ、10件分の仕事をしても8件分の報酬しか得られません。
債権回収に失敗した場合は報酬がゼロになってしまいます。回収業務に使った時間は元に戻りません。ではどうするのか?他の案件に報酬を上乗せして利益を確保している可能性があります。
一般の弁護士では総額100万円の費用が発生したとしましょう。完全成功報酬型で120万円の報酬がかかってしまえば依頼する意味がありません。回収コストを抑えるために依頼したのに、一般の弁護士よりも費用が高くなってしまえば本末転倒な状態になってしまうのです。
完全成功報酬型で依頼数アップも案件1件に取り組める時間が少なくなる
完全成功報酬型、初回相談無料といった言葉は、敷居が高いと思われている弁護士への依頼ハードルを大きく下げます。結果として、依頼数がアップし、弁護士事務所としても利益を多く受け取れます。
しかし依頼者数が増えることで弁護士事務所のキャパシティを超えてしまう可能性もあります。そうなってしまうと、案件1件あたりに割ける時間が少なくなってしまう可能性も高くなるのです。
債権回収業務が流れ作業のようになってしまい、債権回収そのものができなくなる可能性もあります。回収に失敗することで、依頼人企業の大きな損失になるという場合は、死活問題にもなりえます。回収コストを抑えることも重要ですが、確実に回収できるかということの方が、さらに重要なのです。
報酬発生のためによからぬ行為をする場合もある?
完全成功報酬型弁護士も一般の弁護士も依頼者のために最大限の交渉を行ないます。
完全成功報酬型弁護士が自らの報酬アップのためによからぬ行為をする可能性もあるのです。裁判などで絶対に勝訴するために、証拠品や数字などを改ざんしたり、妨害活動に走ったりする可能性もあります。
もちろんすべての完全成功報酬型弁護士がそうではありませんが、完全成功報酬という仕組みが悪い方向に傾く可能性もあるのです。
債権の回収を外部委託するかは債権額で判断しよう
債権回収は非常に困難かつ疲弊する作業です。法律のプロである弁護士に依頼すると回収率も高くなり、一歩踏み込んだ交渉も可能になります。
しかしデメリットとして挙げたように、弁護士に依頼すると費用がかかります。弁護士に債権回収を依頼する時は、売掛金額に対して効率的なのか?費用倒れはしないか?をよく考えて決めましょう。
そしてそもそもの話ですが、回収不能の状態に陥らないように、早い段階で防止策を練っておくのも経営判断の1つです。
参照 売掛金が回収不能になったときの対処法 売掛金問題を解決と防止するための5つの方法
この辺りを総合的に判断し、弁護士に依頼するかどうかを決定すると良いだろう。
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