法人同士の取り引きで起こりやすい問題として「売掛金問題」があります。支払われるはずの期日に売掛金が支払われなかったり、期日を過ぎ何度催促しても支払われなかったりということが起こりえます。
売掛金は受け取るべき代金であり、予定通りに入って来ないことで、会社に大きなダメージを受けることになります。ダメージを回避するためには、受け取るべき代金を回収する、もしくは少し考え方を変え、売掛金を受け取る権利を売却するという2つの方法が考えられます。
まずは売掛金問題が発生する原因や対策、問題そのものを起こさないようにすることが大切です。
目次
なぜ取引先から売掛金が支払われないのか?
取引先から売掛金が支払われない場合の理由として以下が挙げられます。
理由もなく売掛金が支払われないありえません。
売掛金は「売掛債権」です。債権とは相手に一定の行為をするように要求できる権利です。つまり売掛先は期日までに最近を支払わなければならない義務があるのです。
取引先に支払う余裕がない
取引先に代金を支払う資金そのものがない場合、支払い期日に遅れるどころか、支払いすらしてもらえない状況になってしまいます。支払い期日に遅れることを「支払遅延」と呼び、支払いすらしてもらえない状況は「支払い不能」と呼ばれています。
両方とも売掛金の回収にかかわる問題であり、売掛金問題のほとんどがこの「支払遅延」と「支払不能」で起こっているのです。取引先が大企業の場合は支払う資金力もあるため、売掛金問題は起こりにくいでしょう。
しかし中小零細企業が取引先である場合、支払遅延や支払不能が起こる確率も大企業に比べて高くなってしまいます。理由は「資金力が低い中小零細企業が多い」からです。
支払いが遅延するだけならまだ回収の見込みはありますが、支払いできない場合は取引先が倒産寸前、もしくは倒産している可能性が高くなり、回収そのものが難しくなってしまうのです。
支払いの優先順位が低い
取引先が親会社で、支払いを受け取る自分の会社が下請企業の場合は「下請」という理由で支払いの優先順位が低く見られている可能性があります。つまり「舐められている」可能性があります。
しかし元請企業が下請企業に支払遅延を起こすことは、日本の法律である「下請法(したうけほう)」によって禁じられています。しかし現場単位では、未だに「下請いじめ」ともとれる意図的な支払遅延や未払いが横行しているのです。
下請法では商品やサービスの受けとり後、60日以内に支払いを行なわないと違反になります。それ以外にも、下請法違反を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたなどの行為に対する報復行為(取引を縮小したり、取引を停止すること)も禁じられています。
ですが、いくら下請法があったとしても、全ての事案が解決されているわけではありません。現在でも公正取引委員会や中小企業庁へ下請法違反の疑いで調査されている企業が多いのも現状です。
単に忘れられている
単に「支払い」や「請求書の発行と受領」が忘れられているケースもあります。
なぜ支払われないのだろう?と原因を探ったら、請求書自体が作成されていなかったり、取引先に請求書が届いていなかったなどのミスによって支払われていないケースもあるのです。売掛金の支払いが期日通りにされていない場合は、まず請求の手順などを見直してください。
契約書を交わしていない
売掛金問題が起こりやすい原因として挙げられるのが「契約書の不備」や「契約書そのものを作成していない」場合です。日本の法律では、契約書がなくても取引先との口約束で契約が可能です。
しかし法律上でOKとしていることが、売掛金問題に直結しているのはいうまでもありません。納期や納品方法、支払い期日や支払う金額など、最低限の内容が書かれた契約書の発行は、売掛金問題を起こさないためにも必要不可欠なのです。
慣習によって作成していない場合もあります。そういった場合は取引先に契約書の作成を依頼して確実な契約書の作成を行ないましょう。中には弁護士などを間に立てて、契約書を作成する場合もあります。
取引先との関係性を考えた上で、どのように契約書を発行するかを検討しましょう。
売掛金の回収遅延・回収不能が起こった際の解決方法
法人間の売掛金問題の大部分は「支払遅延」や「回収不能」などお金のやりとりに関する問題がほとんどです。代金の回収ができない場合は、法的な解決方法を用いて売掛金の回収を行ないましょう
- 内容証明を送る
- 取引先と交渉する
- 売掛金と相殺する
- 債権を売却譲渡する
- 訴訟を起こす
内容証明を送る
内容証明とは郵便局から発送できる法的拘束力を持つ文書の謄本のことです。簡単にいうと、郵便局で作れる簡易的な証明書のことです。簡易的といっても裁判が起こった場合に証拠書類として扱われるため、売掛金回収業務ではとくに重要な書類といえます。
「資産の差押え」や「売掛金回収の強制執行」といった裁判所命令のような強制力はありませんが、記載する文書に「支払いが無ければ法的措置を執る」という内容を書いておけば、取引先に対するプレッシャーになります。
内容証明でも支払いがされない場合は、本格的に裁判などの法的措置を実行しましょう。
参照 内容証明郵便での売掛金回収は有効な方法!内容証明には決まった文章形式がある
取引先と交渉する
取引先と支払いについて交渉をします。下請け企業だからと遠慮することはありません。パワーバランスで交渉が難しいのであれば、弁護士や債権回収代行業者などに交渉を依頼することも可能です。
売掛金と相殺する
取引先に支払うべき買掛金などの債務がある場合、支払いをしてもらえない売掛金と相殺することも可能です。相殺できる債務があることが条件なため、もしもっているのならば、早めに内容証明で相殺する旨を取引先に伝えてください。取引先から破産通知を受けた後には、相殺ができなくなる可能性があります。
参照 未収入金は取引先との合意さえあれば買掛金と相殺できる!
債権を売却譲渡する
持っている売掛債権を第三者に売却する手段として「ファクタリング」というサービスがあります。ただし、ファクタリングを行なう場合は、支払遅延を起こしておらず、確実に回収できる債権しか売却できません。
そこで取るべき売却方法は「不渡りリスクの高い債権」を専門に買い取る「サービサー(債権回収代行会社」に売却する方法です。サービサーとは、法務省から認可を受けた債権回収会社のことで、サービサーの中には支払遅延が起こっている債権であっても、手数料を支払うことで買い取ってもらえる場合があります。
債権回収に時間を取られるよりも、お金を払ってでも債権の現金化をした方が良い場合もあります。手数料や債権額とのバランスを確認してから利用してください。
訴訟を起こす
売掛金問題がこじれた場合、裁判で訴訟を起こして回収する方法もあります。売掛金で訴訟というと、相手の弁護士と自社が契約している弁護士同士が法廷で話し合って判決を求めるというイメージが定着していますが、実際の売掛金訴訟にはいくつかの種類があります。
- 公正証書…公証人役場で公正証書を作成してもらい、そこに書かれている通りに支払いをしなかった場合は裁判所の判決なしで強制執行ができる方法です。
- 支払督促…正式な裁判の手順を踏まなくても、裁判による判決と同じように裁判所から支払いを命じる督促状を送ってもらえる制度のことです。
- 民事調停…裁判所で裁判官と調停委員会が取引先と自分を仲介して「和解」させることが目的の裁判です。
- 少額訴訟…60万円以下の売掛金問題に関する裁判を原則1日で判決を出せる簡易的な裁判です。
- 強制執行…裁判所に訴えて、判決後に執行官が取引先の資産などを差し押さえる方法です。手続きが多くお金もかかることから、弁護士に依頼した方が良いでしょう。
法人同士の売掛金問題を起こさないための対策
法人間の売掛金問題を起こさないためには「契約書」をきちんと整備することが重要です。
契約書の整備とは「回収で訴訟になったときに証拠書類として最低限必要な情報が明記している」契約書を締結することです。
整備された契約書に明記すべき内容
整備された契約書に記載すべき内容は次の4つです。
- 代金
- 期限利益喪失条項
- 所有権保留条項
- 商品を特定できる記載を入れる
記載すべき内容が書かれていないと契約書として機能しないばかりか、法的な回収を行なう際に契約書が無効になる場合もあります。
代金
当たり前ですが、代金を契約書に明記するのは必須です。取引回数が増えたり、取引期間が長かったりする場合、契約書そのものが作成されないことも多くあるのです。代金が明記された契約書が無ければ、裁判になった際に代金の立証が難しくなります。
1回1回契約書の作成は面倒な作業です。後々の売掛金問題でトラブルにならないためにも、必ず代金の明記がされた契約書を作成してください。
期限利益喪失条項
期限利益喪失条項とは、取引先が代金の支払遅延を起こした際、他に支払期限が来ていない売掛金についても支払義務が生じることを定めている契約条項です。売買基本契約書などにも盛り込まれることが多くなっており、売掛金問題を未然に防ぐ対策としても有効な条項です。
たとえば5月末に支払期限が来る50万円の売掛金があるとします。6月末にも50万円、7月末にも50万円と3ヶ月間で計150万の売掛金があるとします。期限利益喪失条項があれば、5月末の50万円の支払いが遅れた場合に、6月分と7月分の売掛金と合わせて150万円の請求できます。
売買基本契約書や売買契約書にも盛り込まれることが多くなっています。この「期限の利益喪失条項」の有無で売掛金の回収しやすさが変わります。
所有権保留条項
所有権保留条項とは、納品した商品の所有権が、売掛金の支払い完了後に行なわれることを明記した条項です。支払遅延や支払不能(破産などによる)が起こった際、納品した商品の引き揚げも可能になるのが所有権保留条項です。
商品を特定できる記載を入れる
売掛金が回収できなくなり、納品した商品などを返品してもらう場合、動産売買先取特権を行使します。商品を特定できるロット番号や商品番号などが無ければ、この権利を行使することが難しくなってしまいます。
契約書に商品を特定する番号などを明記し、売買契約を行なうことが重要なのです。
法人で起こりやすい売掛金問題は解決できる
法人間の売掛金問題は適切な対策を行なうことで防ぐことが可能です。もし起こってしまっても、損失を最小限にするために行動することが重要です。誰にも相談できないと頭を抱えているのであれば、まずは弁護士やサービサーに相談してください。
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