完成工事未収入金は「売掛金」のことであり、未成工事支出金は「仕掛品」ことと同じ意味となります。
- 「完成工事未収入金」や「未成工事支出金」って何?
- 未成工事支出金を洗い替えすることができるの?
- 完成工事未収入金をすぐに現金化できるって本当?
建設業界では一般の社会とは異なった簿記用語が利用されることがあります。
たとえば建築業界で利用される「完成工事未収入金」という言葉は、一般的には「売掛金(売上債権)」と言われています。
また「未成工事支出金」は「仕掛品」と言われ、資産として繰越計上する洗い替えをすることができます。
単純に言い換えられているだけではなく、建築業界特有の特徴を含み、意味合いが多少異なることがあります。
たとえば一般社会で使われる「仕掛品」ですが、そもそもは「制作途中の商品」のことを指します。そしてこれは当期計上が原則となります。つまり次の決算までに計上するということです。
ところが建築業界では「仕掛品」のことを「未成工事支出金」と呼びます。そして計上の時期は、工事完成までの期間や工事の進み具合に合わせて変動するという違いがあります。
計上時期が変動する理由としては、建築業界の場合、商品が完成したり納品されるまでに非常に時間がかかるためです。
このように、一般的に利用される「売掛金」「仕掛品」という言葉が、建設業界では違った言葉で表現されることはよくある話です。そして意味合いも多少ですが異なってくることがあるのです。
その辺りを勘違いして計上してしまうと、資金繰りが悪化してしまう可能性が出てくることもあるのです。
目次
一般会計と建設業会計を分かりやすく解説
まずわかりやすいように一般会計と建設業会計を分かりやすく解説します。
貸借対照表
建設業経理の科目名 | 一般経理の科目名 |
---|---|
完成工事未収入金 | 売掛金 |
未成工事支出金 | 仕掛品 |
工事未払金 | 買掛金 |
未成工事受入金 | 前受金 |
損益計算書
建設業経理の科目名 | 一般経理の科目名 |
---|---|
完成工事高 | 売上高 |
完成工事原価 | 売上原価 |
完成工事総利益 | 売上総利益 |
完成工事未収入金をわかりやすく解説 集金できていない工事費用(売掛金)のこと
完成工事未収入金とは、工事が完成したのにもかかわらず受け取っていない工事費用のことを言います。つまり一般社会でいうところの「売掛金」です。
どちらにおいても共通することは「商品やサービスは提供したが、その代金を受け取っていない状態」ということです。
完成工事未収入金(売掛金)は、すでに工事が終わった後の清算の話のため分かりやすいのですが、この次に紹介する未成工事支出金(仕掛品)においては、何かと問題が発生しやすいのです。
未成工事支出金とは未完成の工事で発生した費用や支出のこと
未成工事支出金とは、「まだ完成していない工事で発生した費用や支出」のことです。一般の会社でいうところの「仕掛品」と同じ意味を持ちます。
建物を建てたりするような建設業の場合は、「未成工事支出金」という名前で仕訳をします。
そもそも、仕掛品とは「販売ができるまでに製造しており、さらに加工が必要なためにそのままでは販売できないもの」です。
売掛金と仕掛品は異なる
売掛金と仕掛品は勘違いされやすいですが、全く異なるものです。
仕掛品とは現在作っている最中の商品のことを指します。売掛金とは商品を作った後に取引先に納品し、未回収となっている商品代金のことです。
用語としても仕掛品は「工業簿記」であり、売掛金は「商業簿記」となり、そもそも分野が異なります。
ただしここではわかりやすく説明するために、これら2つの異なった種類の言葉を一緒に使って説明しています。
つまり未成工事支出金は「まだ建設、もしくは建築途中であり、その状態では販売できない建物」ということになる。
仕掛品とは、たとえば発酵させている途中の日本酒や、ICチップは取付けていても外側の加工が終わっていないスマートフォンなどが当てはまります。
建設業の場合、「ある程度は形となっているが、まだ販売できる状態ではない建物のこと」です。まさしく仕掛品です。これを建設業界では「未成工事支出金」と呼んでいるのです。
完成工事未収入金は「売掛金」
建設業でいう「完成工事未収入金」とは、一般的な言葉で言うところの「売掛金」 となります。
売掛金とは、商品を作り、取引先に納品し、その商品代金がまだ回収できていないお金のことを言います。
建設業で言ったら、家を建て、工事発注者に納品し、その工事代金がまだ回収できていないお金のことをいうと言うことです。
未成工事支出金は「仕掛品」
建設業でいう「未成工事支出金」とは、一般的な言葉で言うところの「仕掛品」となります。
仕掛品とは、作って位最中の商品のことを言います。この際、商品を作る過程に必要になっているお金もこの中に含まれるようになります。
建設業で言ったら、家を建てたり工事をする際に必要となる材料や人件費などが該当します。
共に「資産」という扱い
未成工事支出金と未成工事支出金は、両方とも「資産」という扱いになります。
参照 「売掛金」とは会社の売り上げ 経営を続けるために必要なお金
冒頭でも紹介した通り、建設業の経理は他の業種とは少し異なり「勘定科目」が特有の言葉に置き換えられているのです。
たとえば以下のようになります。
そしてこの未成工事支出金は洗い替えするケースがあります。ちなみに未成工事支出金を建設仮勘定が混同してしまうケースもあるようですが、違うものです。
未成工事支出金の「洗い替え」とは次期に繰り越しができること
勘定科目上で未成工事支出金は、次の決算期に売り上げとなる可能性があるため、資産として繰り越し計上ができます。
これを「洗い替え」といいます。
建設業や土木業は受けた仕事が終わるまで長い時間がかかるものです。着工から1年目でかかった費用を負債に計上しても、完成までに2年かかるものはすぐに売上として計上できません。つまり期をまたぐことが日常茶飯事の世界です。
売り上げと費用をセット
1つの仕事に対して、「売上」と工事完成までに発生した「費用」は、1セットにしていなければ正しい計上とはいえません。売上と費用は対応している必要があります。そのため一旦資産として計上しておくのです。
工事が完了して売上になった際に、あらためて費用として計上して帳尻を合わせることが可能です。
未成工事支出金は売上原価 建設仮勘定は固定資産
未成工事支出金と建設仮勘定は、性質が似ているため誤って解釈してしまうことがあります。
未成工事支出金は売上原価であり、建設仮勘定は固定資産となります。どちらも作っている最中に必要となったお金ということになります。
もう少し簡単に説明すると以下の通りとなります。
自分で使用する目的で作っているが作り途中のものにかかる費用が「建設仮勘定」だ。
どちらも作り途中であることが共通している。
未成工事支出金の「計上漏れ」が引き起こす資金繰りの悪化
未完工事支出金の計上漏れが資金繰りの悪化に繋がる可能性があります。
単なる計上ミスであれば、確定申告後に修正申告をすれば良い話です。ところが実際にお金を使う立場になると、計上漏れがジワジワと資金繰りを圧迫してくるのです。
資金繰りに困っている建設業や土木業の特徴として、未成工事支出金の意味を勘違いしてしまっているケースがあるとされます。正確に理解しないまま会計処理をしてしまうことで、計上漏れの発生に繋がってしまうのです。
計上漏れが起きてしまうと、会社の運転資金の正しい流れが把握できなくなってしまい、いつのまにかキャッシュフローを悪化させているという状態を作ってしまうのです。
会計処理にミスが起こってしまう原因として2つのことが考えられます。
出来高割合で計上していないから
未成工事支出金は、工事の進捗状況に合わせた「出来高割合」で計上しなければなりません。
未成工事支出金は、作っている建物などが完成するまでは資産として計上されます。「完成してから必要となった費用を割り出せばよい」という考えで計上するものではありません。
未成工事支出金を大まかな目安で計上してしまうと、完成した後に費用として計上する時にズレが生じてしまいかねません。
内訳書を後付けで作成している
未成工事支出金を計上する際、重要となるのが「未完成工事内訳書」です。経費に計上するにしても、詳細を記載していなければ意味がありません。
しかし建設業の場合は、工事期間中に当初予定していた支出以上の出費が発生することがあります。
事務作業の簡素化で事前に内訳書を作成していたとしても、イレギュラーな出費が発生したのであれば、その都度内訳書を作成しなければなりません。
この内訳書をまとめて作成しようとすると、どのようにお金が動いているのかが分かりづらくなってしまいます。結果的にキャッシュフローが悪化し資金繰りの悪化に陥ってしまう可能性があるのです。
このほかにもキャッシュフローが悪化する原因は沢山あります。防ぐためには常に支出を計上していく必要があるでしょう。面倒で大変な作業ではあるのですが、事業を行う上では必要なことです。
結果的に蓋を開けてみると赤字になっていた・・・という事態もよく起こりえる問題です。
よって未成工事支出金を正しく計上していないと、キャッシュフローが悪化し、事業が傾いてしまう可能性があることを覚えておくとよいでしょう。
「工事完成基準」と「工事進行基準」 収益認識基準適応による変化
未成工事受入金は建設業の会計で使用される勘定科目です。一般的な簿記でいうところの「前受金」のことをいいます。
未成工事受入金を仕分けする方法としては、「工事完成基準」と「工事進行基準」の2つがありました。しかしこの2つ共に、2021年4月より廃止となり「収益認識基準」が導入されることとなりました。
とはいえ現状は大きな会社や上場企業に限ったものです。ただしいつ影響が及ぼされるかもわからないため、それぞれの解説をしていきます。
工事完成基準 | 工事進行基準 |
---|---|
工事が完成し引き渡しをしてから、売上高や原価を計上する方法。 | 工事の進捗に応じて、一定の期間ごとに売り上げや原価を計上する方法。 |
工事完成基準と工事進行基準の違い
もう少し具体的に説明したいと思います。
たとえば何かしらの工事を行うとしましょう。一般的には事前に出した見積もりの金額で工事が行われます。そして工事が完成すれば見積もりの金額通りの支払いが行われます。これが「工事完成基準」です。
ところが工事している最中に、あれをしたい、これをしたいといった要望が出てくるものです。そういった要望に対して対応していくことで当初の見積額から金額は変わってきます。これが「工事進行基準」です。
工事完成基準は金額が決まっているためシンプルですし、注文者としても金額が分かっているため安心です。
工事進行基準は金額が決まっているようで決まっていないため、複雑化してしまう傾向にあります。
新収益認識基準 売上計上の仕方が変化する
2021年4月より収益認識基準となり、売り上げの計上の仕方が今までとは少し変わります。
ここまでで紹介してきた「工事完成基準」と「工事進行基準」が一本化され、「収益認識基準」となります。
世界基準に合わせるための導入
新収益認識基準が導入される背景には「IFRS(国際会計基準)」があります。
今まで日本は、「企業会計原則」という独自のルールを採用していたわけですが、ビジネスの多様化・グローバル化に伴い新しい会計基準の導入が必要となってきました。
結果、新収益認識基準が導入されることとなりました。ルールが変更されるため、売り上げの計上の仕方が今までとは少し変わることになります。
5つのステップ
契約の識別 | 契約に含まれる商品やサービスの内容を把握。 |
---|---|
履行義務の識別 | 契約の中に含まれる履行義務を把握。 |
取引価格の算定 | 取引価格の確認。 |
履行義務への取引価格への配分 | 契約における取引価格を、契約における履行義務に分配。 |
履行義務の充足による収益の認識 | 履行義務が充足したら収益認識。 |
ただし先ほどもお話ししたように、大会社や上場企業を対象として適応されることになります。
とはいえ遠くない将来一般的になるルールと考えられるため、建設業や会計に携わるのであれば把握しておくとよいでしょう。
完成工事未収入金を回収する方法 キャッシュフローの悪化を防ぐために資金調達
完成工事未収入金をすぐに回収する資金調達方法は存在します。
- 一般的な借り入れを受ける
- 債権担保融資制度を利用し銀行から借入する
- 売掛債権を譲渡するファクタリングを利用する
完成工事未収入金が入ってこなければキャッシュフローが悪化してしまいます。入ってくるはずのお金が入ってこないというわけなので当然です。
キャッシュフローが悪化し続ければ、事業は継続不可能となってしまいます。そのためキャッシュフローの改善、防止に努める必要があります。考えられる方法としては以下の通りです。
- 資金繰り表でお金の流れの問題点を洗い出す
- 債権を積極的に回収
- 在庫を売却
- 買い掛け金の支払いを遅らせる
これらの行動を起こすことで、まずはなるべく手元にお金が残るようにします。無駄を省き、入ってくるお金はなるべく早く回収し、出ていくお金はなるべく遅く支払うということです。
その間に同時に「資金調達」を行い、まとまった資金を得られると劇的キャッシュフローが改善される可能性があります。
そもそもキャッシュフロー悪化の原因は業種的な問題
とくに建設業系の世界ではキャッシュフローの悪化が生じやすいとされています。
理由としては、1つの工事を完成させるために必要となる費用が、規模が大きいものであれば億単位で発生するためです。工事を完成させるための材料費、工事を行う人に対しての人件費。工事の規模が大きくなればなるほど、金額も膨れ上がります。
受注元から初めに工事費用をすべてもらっているのであれば大きな問題とはならないのですが、そうではないケースが多いです。
また外注業者を利用するとなれば、外周業者への支払いが発生します。さらにイレギュラーなことが起これば、その度に想定外の費用が必要となってきます。
金額が大きくなるほど自社の負担が大きくなります。つまりキャッシュフローが悪化してくるのです。そのような時に資金調達が必要となってくるのです。
ただし融資を受けられれば問題は解決するのか?というと、そうではない場合もあります。資金調達でまとまったお金が入ってくれば、目の前のキャッシュフロー悪化は解消することができるでしょう。ところが融資を受けたということは返済がはじまるということです。
会社のお金の流れを資金繰り表などを利用してしっかり管理していれば良いのですが、何となく管理してしまっていると将来的に返済に苦労してしまうこともあるのです。
建築関係で利用されやすい資金調達方法
建築関係の業種で利用されやすい資金調達方法としてはさまざまですが、特に注目したいのが以下の2つです。
金融機関 | ファクタリング | |
---|---|---|
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
資金調達までの時間に余裕があるのなら、金融機関からの資金調達がベストです。大きな金額を借りることができますし、利率も低いためです。
資金調達までの時間に余裕がないのなら、ファクタリングが1つの選択肢といえます。工事を請けているということは債権があるため、その債権を売却することで資金調達します。売却のため返済の必要がありません。売り上げを手数料を支払い早めに手に入れるという感じです。
ファクタリングなら完成工事未収入金を売却し資金調達が可能
将来的に返済が続いていく資金調達方法以外にも、借金にならない資金調達方法として「ファクタリング」があります。
ファクタリングとは、支払いがされていない売掛債権を第三者に売却する資金調達方法です。支払いがされていない完成工事未収入金を資金化することができます。
利用する際には、債権の金額に応じ手数料が必要となります。引き渡し時に清算となる建設業や土木業にとっては、資金繰りを改善させられる方法として注目されている資金調達方法です。また、ファクタリングは事業性融資やビジネスローンのような月々の返済も発生しません。
おおざっぱな会計処理が原因で資金繰りが悪化しているのならば、まずはファクタリングで当面の危機を回避してください。その後、未成工事支出金の管理などを見直してキャッシュフローを改善しましょう。
計画的にファクタリングを行なうことで、財務管理の仕組みを見直すと良いだろう。
参照 ファクタリングでの資金調達が人気の理由 借金をしないで資金ショートを解決
建設業にファクタリングが人気の4つの理由
建設業者にファクタリングを利用しての資金調達は人気となっています。
建設業者がファクタリングを利用する理由は以下の4つとなります。
- 工事は受注しており、債権が確定している。
- 金融機関から借り入れをするほど規模ではない。
- 信用情報に影響せず、借入にならない。
- 資金調達までの手間がかからずすぐに資金調達できる。
現場によってですが、工事が完了しなければ代金を受け取れない場合があります。しかし工事を行うためには、材料費や人件費の建て替えをする必要があります。
また下請け業者に仕事を振る際にも、やはりまとまった資金が必要となります。それは下請け業者が仕事を請け負う際にはお金がだからです。
いずれにしても、ある程度の資金がなければせっかく受注した仕事を行えない場合があるのです。また資金がなくて仕事を受注できない場合もあります。
そのような時にファクタリングは丁度よい資金調達方法となるのです。債権さえあれば、つまり工事が完成したら売り上げを受け取れる権利さえあれば利用することができるためです。
工事を受注した段階で債権が発生
一般的に工事を受注した段階で債権が発生します。
その段階でファクタリング会社へ債権を売却することで、債権金額から手数料を引いた金額を調達することができます。借金ではないため返済する必要はありません。
ファクタリング会社としても、特に大手の親会社からの仕事であったり公共工事関連の債権は、工事が終わったらほぼ間違いなく支払いを受けられる債権と判断し、喜んで取り扱ってくれます。
万が一工事代金が支払われないようなトラブルが発生した場合においても、ファクタリングで交わす契約はノンリコースでの契約が基本であるため、受け取っているお金をファクタリング会社に戻す必要はありません。
そのため建設業者によっては、ファクタリングを利用することを見越して、元々の見積額に手数料分を上乗せしているケースもある。
未成工事支出金の正しい計上で資金ショートを防ぐ!
建設業界では一般社会で利用される言葉とは異なった専門用語があります。完成工事未収入金は「売掛金」、未成工事支出金は「仕掛品」というように似た意味を持っています。
そして建設業界では工期が長くなることは普通にあり得る話で、決算の期をまたぐことは日常茶飯事です。
この際、未成工事支出金の正しい計上ができていれば、資金ショートを防ぐ予防策になります。未成工事支出金は大体の目安を計上するためにあるのではなく、次期に繋げて売上を正しく出すために必要な項目です。
キャッシュフローの途中経過を把握しながら工事を進めていけば、資金ショートの危機を回避しやすくなります。
参照 建設業会計とは?一般企業の会計とどう違う?(外部サイト)