資金繰り表は、会社のお金の流れを把握するための表です。
会社のお金の流れを把握することで、経営の状況を知ることができます。結果として資金繰りの悪化を未然に防ぐことにもつながったり、資金調達の必要性を早めに察知することができるのです。
会社のお金の流れを把握するための資料は資金繰り表のほかに、貸借対照表や損益計算書といったものがあります。貸借対照表は一時点での情報、損益計算書は一期間での情報となります。つまりある程度の期間を設けたお金の流れを把握する資料となります。
資金繰り表の場合は、さらに短い期間での会社のお金の情報をまとめたものです。
言うなればこれらの資料は、短期、中期、長期で会社のお金の流れを把握するための資料ということになり、経営の指標ともなりえるのです。
今回は資金繰り表の見方、分析方法、そして管理方法をくわしく解説していきます。
目次
会社のお金の流れを把握するための3つの資料
会社のお金の流れを把握するためには、3つの資料が基本となるとされています。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 資金繰り表
これら3つの資料は「3つで1つ」と言われており、このすべてを活かすことで会社の状況を正確に知ることができます。
もう少し詳しく説明すると、各資料の役割は以下のような感じとなります。
- 貸借対照表
一時点での情報。 - 損益計算書
一期間での情報。 - 資金繰り表
日々、もしくは一定期間での情報。
このようにしてみると、それぞれ役割が異なるということが分かると思います。
例えば貸借対照表は決算日を目安に作成されます。つまり1年間を通して事業でどれだけの利益を上げられたのかを見ることができます。
たとえば黒字だったとしましょう。では毎月黒字だったのでしょうか?赤字の月もあったのではないでしょうか。
そこで今度は損益計算書を見ます。例えば毎月損益計算書を作成していた場合、どの月が黒字で、どの月が赤字かを知ることができます。ここで赤字の月の原因を突き止めることで、さらに貸借対照表の数字が良くなるであろうということです。
今回の損益計算書は月単位でした。しかし日単位では見ていません。もしかしたら日単位で黒字赤字が出ているかもしれません。
そこで資金繰り表の出番となります。毎日数字を付けていることで、例えば平日が黒字だが週末は赤字であるなどを把握することができます。これにより対策を講じることにより、損益計算書の数字がよくなります。つまりそれは貸借対照表の数字が良くなることにもつながるのです。
これが、「貸借対照表」、「損益計算書」、「資金繰り表」の3つが1セット言われている理由です。
しかし実際は、貸借対照表と損益計算書のみを意識的に作成しているケースが多いだろう。
ただしお金の流れが多い会社であれば、手間ではあるが資金繰り表を用意したほうが良いだろう。
キャッシュフロー計算書は資金繰り表の簡易版
キャッシュフロー計算書は、事業経営をする上でのお金の流れを書き記した書類となります。資金繰り表の簡易版という位置づけで理解しておいたも良いかと思います。
どこからいくら入ってきたのか、そして、どこにいくら払ったのかを書き記しておくものです。
経営を毎日行われているものであり、その中でお金の流れをしっかりと把握するためにも必要となるものです。毎日確認するのはなかなか大変かもしれませんが、少なくても月に1度でも確認することで、万が一の事態を避けることも可能となってきます。
特に倒産する企業の原因として多い黒字倒産は、数字の流れを常に意識していることで事前に予防することも可能となってきます。
黒字倒産が起こる原因としては、お金の出入りのタイミングのズレによるところが大きいです。
通常取引先より売掛金が入ってくるのは、売上決済後1ヶ月~3ヶ月後となります。しかし固定費の支払いや返済の支払いは毎月支払うことになります。これらの支払いは現金で行います。
このように、お金の出て行くタイミングと入ってくるタイミングにズレが生じてしまうのです。よって売り上げがあるのに支払いができなくなってしまうといった黒字倒産の事態に見舞われてしまうのです
そこでキャッシュフロー計算書を活用しお金の流れを把握することで、黒字倒産のリスクを減少させることができるのです。
このようなことからもキャッシュフロー計算書を日頃から正確に記入し、内容を把握しておくことが事業を守る上でも、そして成長させるためにも必要なこととなるのです。
資金繰り表の見方を知り内容を理解しよう
資金繰り表に数字を入れていくだけでは役に立ちません。数字を記入し、その上で出てきた結果から、経営状況がどのような状態であるのかを適切に判断することが重要なのです。
- あのお金が残っていたはず・・・
- あの売掛金を支払いに充てればいいはず・・・
- たぶん融資の審査が下りるから・・・
このような「たしかあのお金が・・・」といった感じで経営を行っていると、いつかどこかで大きな失敗につながってしまいます。
売掛金とは、商品やサービスを提供した際に、対価であるお金を後日受け取る方式の取引方法です。売掛金の入金日などを把握していないと、支払うべきお金が手元にない状態である資金ショートが発生する可能性が高くなってしまいます。売掛金以外でも「〇〇だったはず…」という考えは、会社を倒産させるリスクを高めてしまうのです。
個人事業主や中小企業は、会社の総資本に対する自己資本の割合を示す自己資本比率が高くなりがちです。自己資本比率が高いということは、資金繰りはすべて自前で行なっているということになります。自己資本比率の対義語が他人資本比率です。他人資本比率とは、融資やビジネスローンといった他人から借りている資本金をさします。
他人資本が受けられる会社であれば、資金ショートが起こったとしても融資やローンを活用してショートしている箇所へ資金を回せます。しかし、個人事業主や中小企業の場合、融資を利用する際の審査に受からない可能性が高いのです。好きで自己資本比率が高いのではなく、融資審査に受からないから自己資本比率が高くなっているともいえます。自己資本比率が高いからこそ、資金繰り表を活用して、常に自分の会社の財務状況を把握しておく必要があるのです。
構造を理解しよう
資金繰り表を簡略化したものが以下の表になります。
項目 | 対象月 | |
---|---|---|
前期からの繰越金 | 〇月 | |
経常収支 | 経常収入 (現金売上、売掛金、手形) | |
経常支出 (現金仕入、買掛金支払、手形決済、人件費など) | ||
経常収支-経常支出 | ||
経常外収支 | 経常外収入 (本業とは異なる収入) | |
経常外支出 (本業の仕入れや経費以外での支出) | ||
経常外収支-経常外支出 | ||
財務収支 | 財務収入 (資金調達などの借り入れ、助成金や補助金、売却などでの収入) | |
財務支出 (借入金の返済) | ||
財務収入-財務支出 | ||
翌月への繰越金 |
経常収支とは会社の営業活動、つまり本業での収支のことです。
経常外収支とは、本業以外での収支ということになります。つまり設備投資や株式投資などの投資にかかわる収支のことを指します。
財務収支とは、会社の財務活動による収支のことです。
参照 資金繰り表のテンプレート例に沿って自分の会社に適した資金繰り表を作ろう!
資金繰り表の原則
資金繰り表の見方として大前提にすべき項目が「翌月繰越金+当座預金の残高」つまり「前期からの繰越金」です。
これがマイナスになってしまうと、倒産リスクが高くなってしまっている可能性があると判断できます。
さまざまな数値を計算式で導き出し、最終的に翌月繰越金+当座預金の残高の値を出すことで、素早く倒産リスクが高くなっている状態に気づけるのです。
経常収支や財務収支の集計に集中しすぎて、繰越金と当座預金の合計残高がマイナスになってしまうのは、どこかで計算が間違っているか、資金調達の計画が間違っている可能性があります。資金繰り表の原則を常に頭に入れておき、資金ショートが起こるような資金繰り表を作成しない、資金繰りの正しい管理を行なうようにするとよいでしょう。
資金繰り表の分析方法~金額に着目する
資金繰り表の分析方法はこれといって決まった方式があるわけではありません。そもそも資金繰り表は基本的なフォーマットはあるものの、法的に作成する必要がない書類です。そのため、会社ごとに使いやすい資金繰り表を自作して運用するのが一般的です。自社の業態に合った資金繰り表を作成しましょう。
資金繰り表を作成し、自社の資金繰り分析をはじめる際、まずは次の4つの視点から資金繰り表の状態をチェックすると良いでしょう。
- 経常収支がマイナスではない
- 3ヶ月後の翌月繰越金+当座預金の合計値がマイナスではない
- 経常収支-財務収支の値がマイナスではない
- 設備投資の投資対効果
それぞれの視点を詳しく解説します。
資金繰り表の分析方法1:経常収支がマイナスではない
経常収支とは、会社の営業活動による収支です。経常収入の部分では以下のような項目の金額の合計値が入ります。
- 現金売上
商品やサービスを提供した対価として現金を受け取った総額 - 売掛金現金回収
売掛金の入金額 - 手形期日落
手形が期日通りに振りこまれた金額の総額 - 手形割引
手形割引を行なって資金調達した金額の総額 - その他収入
営業外収支など
対して経常支出では
- 現金仕入
商品などを現金で仕入れた場合の金額 - 買掛金現金支払
買掛金を支払った金額 - 手形決済
手形による支払いが決済された金額 - 賃金給与
給与支払い金額 - その他経費
その他の経費 - 支払利息・割引料
利息金額や手形割引時の割引料(手数料)など
これらの項目の金額が入ります。経常収入から経常支出を差し引いた分が経常収支金額になります。この経常収支金額がマイナスということは、ビジネスそのものが上手くいっていない場合や、資金繰りが上手くいっていないと考えられます。
手形とは、売掛金の代わりに手形を発行して取引を行なう方法です。手形が発生しない売上債権が売掛金になります。手形割引とは、手形を利用した融資のことです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
参照 手形割引で資金調達 銀行や専門業者で支払期日前に手形は換金可能
買掛金は手形の発生しない掛取引で支払うべきお金になります。手形を振り出した場合は支払手形という扱いになります。もっとも基本的な分析視点ですが、ここがマイナスであれば、かなり危険な状態にあると判断しましょう。
資金繰り表の分析方法2:3ヶ月後の翌月繰越金+当座預金の合計値がマイナスではない
当座預金とは法人専用の銀行口座のことです。当月や翌月の繰越金+当座預金の合計値に注目してください。当月から3ヶ月後の数値がマイナスである場合、すぐにでも資金調達をしないと、待ち受けているのは資金ショートによる倒産です。
なぜ3ヶ月後かというと、資金調達をするための時間確保や資金繰り改善の施策で効果がでる時間が必要だからです。両方を同時に行なうことがベストですが、優先順位が高いのは「資金調達」になります。
どれだけ社内で資金繰りの改善施策を行なったとしても、当面の資金ショートを防がなければ、会社そのものがなくなってしまうのです。融資の申込にしろ、不動産などを担保にした融資にしろ、審査や手続きに時間がかかります。
一刻も早い資金調達方法の検討を行なうことをオススメします。
資金繰り表の分析方法3:経常収支-財務収支の値がマイナスではない
経常収支から財務収支を差し引いた分の金額がマイナスではないことを確認しましょう。もしマイナスの場合は「営業収支で借入金の返済額が賄えていない状態」にあるということになります。
マイナス分は会社の貯金から補てんしなければなりません。経常収支-財務収支の金額が慢性的にマイナスになっている場合、貯金している口座のお金が底を尽きた時点で借金が過剰に多い状態、つまり過剰負債になり倒産してしまうのです。
この状態を打破するためには、資金繰りそのものを見直さなくてはなりません。現在の借入金に対する利息に問題はないのか、売掛金の回収サイクルに問題はないのかなど、会社の資金サイクルを全体的に見直すことが重要です。
その上で自分の会社に適した資金調達方法を選択して、資金繰りを安定させることが求められるのです。
資金繰り表の分析方法4:設備投資の投資対効果
資金繰り表には投資効果に関する情報は掲載されていません。別の帳簿なり、分析シートで管理する必要があります。設備投資の投資対効果を計測する場合は、投資前のデータと投資後のデータを見比べながら、具体的な金額を計算しておくと把握しやすいでしょう。
もし、設備投資した金額に対して、売上や利益が想定よりも低いようであれば、設備の売却やセールアンドリースなりを検討して、資金繰りの安定化につとめるとよいでしょう。
資金繰り表の分析方法~期間に着目する
資金繰りの分析方法には、金額を見て分析することのほかに、計算式を活用して、会社の運転資金がうまく回っているかを確認することも重要です。
とくにチェックすべき期間は次の3つです。
- 月ごとの売上債権回転期間
- 月ごとの仕入債務回転期間
- 月ごとの棚卸資産回転期間
参照 売掛金の回転率とは債権回収効率を示す指標 債権回収スピードアップで資金繰りを改善させよう!
それぞれの計算式と分析方法、対策について解説していきます。
資金繰り表の分析方法5:月ごとの売上債権回転期間のチェック
月ごとの売上債権回転期間は数字が小さければ小さいほど資金繰りの状態が良好ということを指し示しています。逆に回転期間の数字が大きいと資金繰りは悪いと判断できます。売上債権回転期間の計算式は
で計算できます。例を挙げてみましょう。
- 月間売上高300万円
- 売掛金600万円
- 受取手形800万円
この状態を計算式に当てはまてみると以下のようになります。
現金取引が多い会社の場合は、基準となる回転期間は0.3~0.6ヶ月。それ以外の一般の会社は2.0~2.5ヶ月といわれています。
売上債権回転期間を短くするためには、現金取引を増やす(もしくは変更する)ことで簡単に数値は下がります。しかし、取引相手が急な支払い方法の変更に応じてくれるとは限りません。掛取引の売上金入金日を短くしてもらうなどの交渉からスタートするとよいでしょう。
支払い条件が悪い会社(取引相手)の場合、交渉に応じないようであれば、取引を停止するというのも選択肢の1つです。慢性的に売上債権回転期間の数値が高いのであれば、掛取引や手形のような後払い方式ではなく、前払い方式に切り替えることも検討するとよいでしょう。
資金繰り表の分析方法6:月ごとの仕入債務回転期間のチェック
売上債権回転期間と逆で、仕入債務回転期間は数字が小さければ小さいほど資金繰りが悪化していると判断できます。計算式は
で導きだせます。基準となる数字も売上債権回転期間と同じで、現金取引がメインの場合で0.3~0.5ヶ月、一般的な会社の場合で2.0~2.5ヶ月です。仕入債務回転期間の数字を大きくするには、入金日を長くしてもらう、入金日が短い会社との取引を停止する、などの対策が有効です。
資金繰り表の分析方法7:月ごとの棚卸資産回転期間のチェック
棚卸資産とは、会社の商品などの現物、つまりは在庫のことです。この在庫が長い間倉庫に眠っている場合、会社の資金繰りは悪化している傾向にあると判断できます。まずは計算式を見てみましょう。
小さければ小さいほど、不良在庫がなく資金繰りも良好であると判断されます。逆に数字が大きければ大きいほど不良在庫を常に抱えている会社だるといえるでしょう。対策としては、在庫管理、発注方法の見直しなどが有効です。
注意すべきは、棚卸管理に集中しすぎて、肝心の売上が減ってしまえば、元も子もないという点です。業種によっては、売上を維持しながら在庫を減らすことが求められます。企業努力な部分ではありますが、将来的に不良在庫が大量に倉庫に眠ったままの状態は、資金調達の障害になる可能性もあるのです。
資金繰り表を上手に活用できれば資金繰りは安定する
資金繰り表の見方や考え方、分析方法に管理方法を理解した上で運用できれば、会社の資金繰りに悩まされることはありません。資金繰り表はなにも1から10まで経営者であるあなた自身が分析する必要はありません。
関係部署や部下の分析力向上のために権限移譲するのも大事です。もちろん最終的なチェックはあなたが行なうべきですが、こうした分析を会社全体の共通認識としてもっていけば、会社としてさらに成長できるはずです。また、部下が分析を行なったものに対して、新しい視点を与えることで自分自身の気づきにもつながります。
資金繰り表というたった1枚の紙を使いこなすだけで、ここまで無形の利益を生んでくれるのです。