約束手形を2026年をめどに廃止するといった方針を、経済産業省が決定したのが2021年です。
つまり手形を利用した資金調達方法の「手形割引」の利用もできなくなるということでしょう。
支払いまでの期間を延ばしたり、手形割引を利用して資金調達をしたりと、手形は一定の役割を果たしてきました。
ところが便利な側面を持つ反面、不渡りや銀行取引の停止、紛失のリスクなど、大きなデメリットがあったという事実もあります。
そこで登場するのが「電子記録債権(でんさい)」です。それによりその割引サービスである「電子記録債権割引(でんさい割引)」の利用者が増加してくるかと考えられます。
目次
手形の需要が減った背景
約束手形の廃止が決定した背景として、需要の減少が挙げられます。
1990年、日本での手形取引量は約4700兆円。しかし2020年にはその約3%の約130兆円と、大きく取引額が減少しています。
この要因はさまざまですが、先ほどもお話しした不渡りによるデメリットや紛失のリスクなど、デメリットが大きかったということも言えるでしょう。
さらに電子債権へ移行する事業者の増加、資金調達方法の多様化など、わざわざリスクの高い手形を利用するまでもなくなったということが廃止理由として考えられます。
手形割引が消える!?
売掛金の支払い方法として約束手形を選択している事業者はいまだにいます。
その事業者の中には、手形割引をすることで資金調達をしていた人もいることでしょう。
ところが、約束手形が廃止されるということは手形割引のサービス自体もなくなるということになります。
手形割引を利用していた事業者からすると、資金調達方法が1つ無くなることになります。
さらに手形割引を行っていた業者としても、1つの収入源が無くなるということにつながります。
電子債権割引に変わっていく
約束手形が無くなることで手形割引は無くなるかもしれませんが、同様のサービスは継続するものと考えられます。
それが「電子記録債権割引」です。
約束手形に代わり「電子記録債権」が利用されるようになっていきます。電子記録債権とは「だれがだれにいくら支払う」のかを、電子記録として残すといったものです。
紙ベースの手形のデメリットを、多くの面で克服したものとなります。
極端な話、約束手形も電子記録債権も行っていることは非常に似通った形といえます。
電子記録債権になったとしても「債権としての価値」があるわけですから、約束手形と同じように「割引」をすることが可能となります。
電子債権だとしても、債権の価値があると証明できれば、それを利用して資金調達が可能になる。
電子債権割引 VS 電子債権ファクタリング
約束手形が無くなり電子記録債権になることで、「電子債権割引 VS 電子債権ファクタリング」の構図が浮かび上がってくるかと考えられます。
もともと、手形割引とファクタリングは非常に似たサービスでした。似たサービスではあるのですが、一方は約束手形(手形)に対して、もう一方は売掛債権(現金)に対してのサービスでした。
これまでは会社間で取引を行い、相手の会社への支払いの際には、現金か手形かで選択していました。
現金であれば「売掛金」、手形であれば「約束手形」となっていました。つまり今までは、似たサービスでありながらも土俵が異なっていたのです。
しかし電子記録債権の利用者が増えることにより、電子債権割引と 電子債権ファクタリングが同じ土俵で戦うことになる可能性が出てくるのです。
電子記録債権がどこまで広がるのかがキモ
いろいろなものが電子化する世の中ですが、電子化すればすべて解決するかというものでもありません。
また電子化が普及しにくい分野もあります。それが「電子記録債権(でんさい)」です。
メリットがある反面、デメリットが意外と多いのです。
- 支払元と支払先が加入する必要がある。
- 社内ルールの変更の必要性。
- 不渡りのリスクがある。
- 一定の条件を満たさないと利用できない。
- システム利用料が必要となる。
- オンライン特有のリスクがある。
これらのデメリットは意外と大きなものであり、現状ではあまり広まらないかと思うのです。
結果的に、約束手形で支払いを行っていた事業者は、でんさいの利用よりも、現金払いへ移行する割合の方が多いと考えられます。
場所が移り変わるだけで内容は変わらない
約束手形が廃止の方向へ進み、それにより手形割引もなくなるかと思わる一方、単純に場所が変わるだけで同じような仕組みは残っていくかと思われます。
電子債権記録は確かにこれからの時代、必要なものではあるかと思います。
ただし現状では導入リスクが高いかと思うのです。
これにより、今まで手形での取引を行っていた事業者は、電子記録債権を利用するよりも、現金での支払いに切り替えるケースが増えると思われます。
もしくはさらに新しい決済方法が登場してくる可能性もあることでしょう。