約束手形が廃止の方針であることが発表されています。紙の約束手形・小切手については、政府と全国銀行協会が2026年度末(2027年3月末)までに交換を廃止する目標を掲げており、多くの金融機関で新規発行の終了が進んでいます。
受取人側の負担が大きいことや約束手形のコスト削減、リスク回避のためです。たしかに約束手形は受取人側にとってデメリットが大きい取引方法です。
しかし手形を使った資金調達方法である手形割引まで使えなくなれば、手形割引に替わる資金調達方法を模索しなくてはなりません。手形が廃止されることで事業者間の取引方法もまったく異なるものになるでしょうし、事業者の戦略にも影響を与えることになるでしょう。
ここでは約束手形の廃止方針についてと、手形割引に替わる資金調達方法についてお話ししていきます。
とくにこれまで約束手形や手形割引に頼ってきた中小企業にとっては、「約束手形の代わりにどのように資金を確保するか」が重要な課題になります。約束手形の代替手段としては、売掛金を現金化できるファクタリングが有力な選択肢でしょう。
ここでは「約束手形に代わるファクタリング」という観点から、廃止のスケジュールと影響、ファクタリングを含む具体的な資金調達方法を整理して解説していきます。
- 約束手形 ファクタリングの基本的な違い
- 約束手形廃止が中小企業の資金繰りに与える影響
- 約束手形の代わりに検討すべき具体的な資金調達手段
目次
手形による取引を2026年まで 約束手形が廃止の方向
経済産業省は「2026年までに約束手形を廃止する」という方針を発表しており、2027年以降は手形交換所の小切手・手形交換業務が終了する予定です。
多くの金融機関ですでに手形帳の発行停止が始まっており、事業者は早急に「手形を使わない取引」への移行を迫られています。
「約束手形の利用の廃止等に向けた自主行動計画」の策定
・ 自主行動計画の期間は5年間とし、毎年のフォローアップの状況もみながら3年後に自主行動計画の中間的な評価を行い、必要な見直しを行うこととしてはどうか。
参照 経済産業省:「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」報告書(骨子)
- 政府は2026年までに約束手形の利用を廃止する方針を示している
- 多くの業界団体が約束手形の利用縮小・廃止に向けた計画を策定している
- 手形割引に依存している企業ほど、早めの資金繰り見直しが必要になる
参照 約束手形の廃止に向けた自主行動計画(一般社団法人 日本貿易会 )
政府はなぜ今になって約束手形廃止の方針を固めたのでしょうか。それにはいくつかの背景がありました。
支払サイトが長くなってしまう
中小企業庁が実施したアンケートによると、現金振込のサイトは平均約50日であるのに対し、約束手形を使用した支払サイトでは約100日と2倍の長さになっていました。
また、現金振込の期日に約束手形を振り出される取引も行われており、その場合は商品やサービスを提供してから150日後に支払いが行われます。
150日間、支払いをしてもらえないことは、約束手形の受取人側として資金繰りを困難にする要因にもなるでしょう。
このような受取人側が損をするような手形取引が当たり前のように行われてきたのが日本の商取引なのです。

手形を使った取引が常態化している経済大国は日本だけ

参照 経済産業省:「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」報告書(骨子)
『約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会』の調査によると、日本は諸外国に比べて約束手形が発達し、現在でも一般的な商取引の方法として残っています。外国の事業者との取引では手形ではなく、銀行振込やクレジット取引が主流であることから、いかに日本が約束手形取引に依存しているかが伺えます。
東アジア圏ではシンガポールや中国、韓国も手形取引を行っているものの、シンガポールは2025年までの廃止、中国と韓国は電子手形が主流です。つまり、紙ベースの約束手形を常態的に使用している経済大国は日本だけということになるのです。今後さまざまな業種が海外展開する可能性は高いでしょう。海外事業者との競争に勝つためには、約束手形に依存しない資金繰り管理が重要になるはずです。

約束手形が廃止になる理由
約束手形が廃止になる理由としては、主に次の2つが挙げられます。
- 受取人の資金繰り負担軽減のため
- コストや管理リスクの問題軽減のため
それぞれの理由についてお話しします。
受取人の資金繰り負担軽減のため
商品やサービスの対価として約束手形を受け取った場合、その売上が受け取れるのは約束手形の期日内の期間中です。ほとんどの約束手形は支払期日の当日に支払われることが経産省の企業アンケートによって判明しています。
つまり、約束手形を受け取った事業者は、約束手形の支払期日が来るまで代金の受取はできないということになるのです。現金振込期日に約束手形を振り込まれた場合、さらに支払期日が伸びるため、約束手形の金額によっては受取人側の資金繰りが悪化する可能性はかなり高くなるでしょう。
約束手形を廃止することによって、受取人側の約束手形が原因の資金繰り負担が軽減されるようになるのです。
コストや管理リスクの問題軽減のため
約束手形は振り出す側も受け取る側にもコストと管理リスクが発生します。日本の約束手形による取引は紙ベースが一般的です。紙ベースの約束手形を振り出す際には印紙代がかかります。
参照 国税庁:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

手形金額によっては数百円程度ではあるものの、複数の事業者に約束手形で支払いを行う場合には相応のコストが発生します。また、印刷や郵送コストも発生するでしょう。
振出人、受取人双方にかかるリスクが「管理リスク」です。災害などで受け取った約束手形を紛失してしまう可能性もあるでしょう。
東アジアの国々はこうしたコストやリスクを踏まえて、約束手形の廃止や電子手形(コストや管理リスクが紙ベースよりも低い)に切り替えているのです。
【比較表】手形割引の代わりに使えるファクタリングの実力
約束手形が廃止されることで、さまざまなことが変わるでしょう。とくに影響するのは約束手形の資金化=手形割引を資金調達のメイン方法にしている中小企業の受取人です。
これまで「手形割引」で資金を回していた企業にとって、最大の懸念は**「これまで通りの手数料やスピード感で資金調達できるか」**という点でしょう。 手形割引とファクタリングの決定的な違いを比較表にまとめました。
| 比較項目 | 手形割引(廃止予定) | ファクタリング |
|---|---|---|
| 資金化の対象 | 受取手形(有価証券) | 売掛金(請求書) |
| 調達スピード | 数日~1週間程度 (銀行審査が必要) | 最短即日~3日 (民間業者が多い) |
| 審査の対象 | 自社 + 振出人の信用 | 売掛先(取引先)の信用重視 |
| 手数料(金利) | 年率 2.0%~5.0%程度 (低コスト) | 数%~10%超 (2社間・3社間で異なる) |
| 不渡りリスク | 償還請求権あり (不渡り時、自社が弁済義務を負う) | 償還請求権なし(原則) (回収不能でも弁済義務なし) |
| 決算書への影響 | 借入扱いになる場合がある | オフバランス化が可能 (借入金に計上されない) |
- 審査が柔軟:銀行融資が厳しい状態でも、売掛先の信用があれば利用しやすい。
- リスク遮断:もし売掛先が倒産しても、原則として返済義務がない(ノンリコース)。
- 即日入金:銀行の手形割引よりもスピーディーに現金化できるケースが多い。
約束手形が廃止されれば手形割引も利用できなくなります。そうなると掛取引やクレジット取引が主流となってしまい、ほかの資金調達方法を模索する必要があるでしょう。
手形割引に替わる資金調達方法と聞くと、まっさきにイメージするのが「融資」です。金融機関や金融会社、政府系金融機関からの制度融資など、資金を「借りる」ことが第一候補になるでしょう。
参照 銀行融資
ですが、手形割引に替わる資金調達方法はなにも融資だけではありません。
実際に経産省の「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会」報告書(骨子)」にも手形割引に替わる事業者の資金調達方法として「ファクタリング」が挙げられています。
約束手形の代わりに使えるファクタリングとは?
手形割引の代替手段として「でんさい(電子記録債権)」もありますが、利用するには取引先(発注側)もでんさいシステムを導入している必要があります。
一方、ファクタリングであれば、相手がでんさいを導入していなくても、通常の「掛け取引(請求書払い)」さえ行っていれば利用可能です。
この「導入ハードルの低さ」が、約束手形廃止後のつなぎ資金としてファクタリングが注目されている理由です。
ファクタリングは、売掛金(請求書)をファクタリング会社に売却し、手数料を差し引いた金額を先に受け取る資金調達方法です。銀行からお金を「借りる」融資とは異なり、「持っている売掛金を現金化する」取引である点が大きな違いです。
約束手形の手形割引と同じく期日を待たずに資金化できるため、仕入れや人件費の支払いに必要な資金を早めに確保できます。
一方でファクタリングは融資と違い、原則として貸借対照表上の「借入金」が増えないため、負債を増やさずに資金繰りを改善しやすいという特徴があります。
その反面、手数料率は銀行融資の金利より高くなることが多く、長期的に常用するよりも「約束手形が使えなくなった時の資金繰りギャップを埋める」、「一時的な資金ショートを防ぐ」といった用途で使うのが基本です。
ここからは約束手形の廃止を見据えて、ファクタリングをどのように組み合わせるべきかを解説します。
ファクタリング以外にも「もらう=投資してもらう」資金調達方法として、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの投資、クラウドファンディングなどが挙げられます。
一方で、多くの中小企業にとっては「投資を受ける」よりも、「既に発生している売掛金をファクタリングで早めに現金化する」ほうが現実的です。
約束手形が廃止されたあとも、掛取引や売掛金は残るため、それらをどのタイミングで現金化するかが資金繰りのポイントになります。
たとえばこれまで約束手形の期日前に手形割引で資金を調達していた企業であれば、今後は同じ取引先との掛取引から生じる売掛金を対象にファクタリングを利用することで、従来と近いタイミングで資金を受け取ることが可能です。
「売掛金」を資金化するファクタリング
約束手形が廃止されることで増加する可能性が高い商取引としては「掛取引」が挙げられます。掛取引とは手形が発生しない信用取引のことで、約束手形が廃止された場合、今後増加すると予想されています。
この掛取引で発生した売掛金を資金化する方法が「ファクタリング」です。受け取った売掛金を専門の業者に手数料を支払った上で買い取ってもらい、その差額を事業資金にする方法になります。
「もらう=投資してもらう」資金調達に慣れておくべき理由
エンジェル投資家やベンチャーキャピタル、クラウドファンディングといった「もらう=投資してもらう」資金調達方法は今後事業者の資金調達方法として増えていく可能性が高いでしょう。というのも、これらの資金調達方法には「DX化推進」が影響しているからです。
IT化がさらに進化した考え方が「DX=デジタルトランスフォーメーション」です。経済産業省が発表したDX推進ガイドラインでは以下のように定義されています。

参照 経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルといった投資家や投資機関とのコンタクト、クラウドファンディングのような投資サービスはインターネットで行うのが一般的です。今後日本の商取引に限らず、さまざまな分野においてDX化に慣れておくのはとても大事なことになるでしょう。
約束手形・手形割引廃止でも資金繰りが悪化しないようにファクタリングなど他の資金調達方法を理解しておくことが大事
今後事業者が求められるのは、手形割引に替わる資金調達方法を理解しておくこと、そして約束手形に依存しない資金管理でしょう。
約束手形の廃止は日本の商取引そのものを根底から変えるでしょう。
掛取引や電子債券取引が増えることが予想されるため、それらの取引を資金化できる方法を頭に入れておかなくてはなりません。
受取人側の負担は減るかもしれません。ですがその負担軽減に甘んじることなく、事業運営・財務管理をさらにブラッシュアップさせることが近い将来に重要になってくるでしょう。
手形廃止とファクタリングに関するよくある質問
経済産業省の方針により、2026年を目処に利用廃止が進められています。すでに多くの銀行で手形帳の新規発行が停止されており、2027年以降は手形交換所の業務も縮小・終了に向かう予定です。まだ利用は可能ですが、受取拒否などのリスクを避けるため、早急な切り替えが推奨されます。
最大の違いは「不渡り時のリスク」です。手形割引は融資の一種であるため、振出人が不渡りを出すと自社に弁済義務(買い戻し)が発生します。一方、ファクタリングは売掛債権の「売買」であるため、原則として取引先が倒産しても自社に弁済義務はありません(償還請求権なし)。
はい、可能です。手形の代替策とされる「でんさい(電子記録債権)」は双方がシステムを導入する必要がありますが、ファクタリングは「請求書(売掛金)」さえあれば利用可能です。取引先に新たなシステム導入を依頼する必要がないため、手形廃止後のつなぎ資金として導入しやすいのが特徴です。
一般的に、銀行の手形割引(年率2〜5%程度)に比べると、ファクタリングの手数料(数%〜10%超)は高くなる傾向があります。しかし、ファクタリングの手数料には「売掛先が倒産した際のリスク保証料」が含まれている点や、「最短即日で現金化できるスピード」がメリットです。状況に合わせて使い分けることをおすすめします。
まずは自社の売上のうち「手形回収の比率」を把握し、取引先に「振込払い」への変更を打診しましょう。支払サイト短縮が難しい場合は、資金繰りの悪化を防ぐために、ファクタリング業者と事前に契約を結んでおくなど、「いざという時の現金化ルート」を確保しておくことが重要です。






























