売掛金が回収不能になると、売掛元であるあなたの会社は倒産する可能性が高くなります。
このような状態を「連鎖倒産」といいますが、実は行政主導で連鎖倒産を防ぐための「特別融資」があるのです。それが日本政策金融公庫が行っている「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」です。
売掛金の回収不能は、取引先の財務状況が悪化することで起こるケースがほとんどです。取引先が倒産してしまうと、売掛金の回収が非常に難しくなります。
適切な経理処理を行うことで、節税効果を狙うことができますが、とはいえ、売掛金が入って来ない方が会社にとっては大きなダメージを負うことになってしまいます。
これにより自社の資金繰りも悪化してしまい、最悪の場合は「倒産」に至る可能性もあります。
取引先の倒産によって、自分の会社も倒産してしまう状態が「連鎖倒産」です。この連鎖倒産を防ぐ目的で「日本政策金融公庫」が行なっている融資サービス「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」があるのです。
これをうまく活用することで、万が一売掛先に問題が発生しても、自社へのダメージを軽減することができるのです。
目次
売掛金の回収不能が倒産理由として挙げられる
中小企業庁が発表している「中小企業白書」によると、売掛金の回収不能は企業倒産理由としては全体の2%ほどです。全体の2%とはいえ、現在の日本では年間平均で8000社が倒産していることから、単純計算すると約160社が売掛金回収不能が原因で倒産しているのです。
また売掛金の回収不能が直接的な倒産の原因が2%ということであり、そのほかの倒産理由にも影響を与えていると考えられます。たとえば「連鎖倒産」です。
参照 倒産の状況(中小企業庁)
企業倒産理由の第1位は販売不振 しかし原因の1つとして売掛金が
売掛金問題は企業倒産理由のほとんどに影響しています。
中小企業白書に掲載されている、2016年10月の企業倒産理由を上から並べていくと
1位・・・販売不振:68%
2位・・・既往のしわよせ:13%
3位・・・過少資本:13%
4位・・・放漫経営:5%
5位・・・連鎖倒産:5%
6位・・・設備投資過大:5%
7位・・・信用性の低下:5%
8位・・・売掛金回収難:2%
9位・・・在庫状態悪化:1%
このような順位になります。
販売不振、つまり商品などが「売れない」ことが原因の倒産が全体の7割を占めています。そのほか、キャッシュフローの悪化に気づかないまま倒産する「既往のしわよせ」と、資本金の少なさが災いして倒産する「過小資本」がともに13%です。
一見、売掛金回収難が少ないように思えますが、すべての理由に売掛金問題が影響を与えている可能性が十分考えられるのです。
売掛金の回収難は第8位!しかしすべての原因に通ずることも
「売掛金の回収難」は企業倒産理由の中で第8位です。しかし売掛金の回収難というのはあくまでも「売掛金の回収が難しい」という話です。売掛金が抱える問題は「回収難」だけではありません。
売掛金の支払遅延や回収不能によって企業の資金繰りが悪化することも売掛金が抱える問題なのです。
それぞれの倒産理由にどのような形で売掛金問題が影響を及ぼしているか見ていきましょう。
1位・・・販売不振:68%
シンプルな理由でもある「販売不振」ですが、売掛金問題から発生しているケースもあります。それが「ビジネスのチャンスロス」です。
チャンスロスとは、本来得られるはずの利益をなんらかの影響で逃してしまう状況のことです。売掛金の回収不能や支払遅延が起こった場合、資金繰りが悪化してしまい、投資すべきお金がない状態になってしまします。売上アップのためにお金を使いたくても使えない「チャンスロス」を引き起こす可能性があるのです。
小売業のチャンスロスの例を挙げてみましょう。テレビやSNSで流行している商品があるとします。順調に売掛金が入金され、健全な資金繰りをしている場合は、流行に乗じて必ず売れる商品を仕入れることが可能になります。
しかし売掛金問題が起因している資金繰りの悪化によって、確実に利益の見込める商品を仕入れられなくなってしまうのです。このような状態が「ビジネスのチャンスロス」にあたります。
2位・・・既往のしわよせ:13%
既往のしわよせとは、業績が悪化しているのにもかかわらず、その事実を把握していないためにキャッシュフローが悪化してしまう状況で倒産に至るケースです。老舗企業などに多い理由ですが、ここでも売掛金問題が影響を及ぼしています。
老舗企業の取引形態は昔からの付き合いが多く、売掛金の支払遅延が起こったとしても、回収業務を行なわない場合があります。付き合いの長さが影響して、人間関係を壊したくがないために、支払いの催促を行なわないことも少なくありません。
本来支払われるはずの売掛金が得られず、気が付けば資産の限界を下回っている状況に陥るのです。資金繰りに黄信号が灯った後に、売掛金の回収業務を行なったとしても、昔からの取引先を失うばかりか、回収業務に手が回ってしまい本来の業務を圧迫してしまうケースもあるのです。
3位・・・過少資本:13%
会社法が改正される以前、株式会社の設立には最低でも1,000万円を資本金として用意しなければならないという規定がありました。しかし会社法の改正後、資本金は最低1円以上あれば誰でも株式会社を設立できるようになったのです。
企業の収入は売上から経費を差し引いた分の利益です。もし収入よりも経費が高くついた場合は、資産を減らして赤字を解消しなくてはなりません。会社の運転資金が潤沢であれば問題ありませんが、資金が底をついた場合は資本金から支払うことになります。
資本金が少なすぎてマイナスになった時点で会社は倒産します。売掛金問題が影響しているという点では「節税のしすぎ」つまり売掛金が不渡りになった場合の処理方法を誤ったために資本金がマイナスになってしまうのです。
売掛金が不渡りになると「貸倒損失」として経費計上します。たしかに経費計上するのも大事です。貸倒損失に計上せざるを得ないのは、売掛金回収できなかったことが原因です。
不渡りになって資産が目減りした。大丈夫、不渡り分は経費計上して節税するから。というのでは資本金がマイナスになるのも時間の問題です。節税をするのではなく、売掛金をしっかりと回収して、会社の資本金を増やし、万が一の状態に備えられる資金体力をつけなければならないのです。
4位・・・放漫経営:5%
会社の管理体制がずさんだったために起こる倒産を「放漫経営」といいます。売掛金の回収を怠っていたり、キャッシュフローが悪化しているのに手を打たなかったりした場合に起こります。
会社の資金管理はすべて経理に丸投げしていたり、売掛金の回収はすべて営業に丸投げしたいたりといった状態では、売掛金問題が起こっていたとしても、その対策を練ることが難しくなるのです。売掛金問題は会社の問題=社長の問題なのです。
5位・・・連鎖倒産:5%
売掛金問題が直接的に関わっている倒産理由が連鎖倒産です。連鎖倒産とは、取引先から支払われるべき売掛金や約束手形の代金、貸付金などが取引先の倒産によって支払われなくなることで起こります。
中小企業の場合、ほとんどの会社が下請や孫請、ひ孫請というケースが多いです。元請け(親会社)の支払いに依存している場合、元請けの倒産によって仕事と収入が無くなってしまい、結果的に親会社共々倒産してしまうのが連鎖倒産です。
6位・・・設備投資過大:5%
設備投資は会社の生産性を向上させるためにも重要な投資です。しかし資金繰りが悪化している状態での設備投資は、会社の命運を左右する「してはいけない投資」なのです。
収入を売掛金に依存している場合、その代金が支払われないと設備投資で使ったお金(資本金や融資など)を補填できずに、会社の財務状況が悪化します。設備投資は身の丈にあった金額を計画的にしなければ、会社そのものを倒産させてしまう理由にもなるのです。
7位・・・信用性の低下:5%
売掛金をもっている会社のほとんどは、買掛金も所有しています。要は手形取引ではなく、掛取引がメインの取引方法なのです。買掛金を支払うために売掛金の入金を待つ。しかし売掛金が、支払われない。結果的に買掛金が支払えずに取引先に対して信用を失ってしまう。
そして融資を申し込みたくても、買掛金の未払いがあることで審査にも通過しない。結果的に資金繰りが悪化して倒産に至るのです。
8位・・・売掛金回収難:2%
ただ単に売掛金の回収難だけでは倒産理由になりません。売掛金の回収難が起こっている原因を明らかにしなくてはならないのです。売掛金の回収がスムーズな会社は、資金繰りも安定しています。
資金繰りが安定している理由は、売掛金回収目標率などの売掛金回収業務を「システム化」しているからです。「回収できないから貸倒損失で計上しよう」と諦めてしまっては、せっかくの売上が消えて無くなってしまいます。
売掛金回収業務を難しくしているのは、取引先の問題だけではなく、自分の会社、社長であるあなた自身なのです。
9位・・・在庫状態悪化:1%
在庫過多を起こしてしまい倒産に至るケースです。売掛金の回収さえできていれば、過剰在庫を抱えたとしても資金繰りはやりくりできます。しかし売掛金の回収もできずに、在庫状態も悪ければ資金繰りが悪化するのは当たり前です。
在庫数の管理は、売掛金の管理と同じくらい会社の資金繰りに対して重要なのです。
連鎖倒産防止融資サービスは利率がかなり低い
「連鎖倒産」を防止するための行政主導の融資サービスとして「セーフティネット貸付」があります。
これは日本政策金融公庫が融資元になります。
日本政策金融公庫の取引企業倒産対応資金「セーフティネット貸付」
「セーフティネット貸付」には、個人事業主と法人の創業時向けの「国民生活事業」と中小企業向けの「中小企業事業」の2種類の融資サービスがあります。
両方とも取引先の会社が倒産してしまい、自社の事業継続が困難になった場合に申し込める融資サービスです。
それぞれには、資金の使い道や金額に違いがあります。
- 国民生活事業=売掛金債権の回収困難、売上減少などのため緊急に必要となる運転資金および関連企業の倒産の影響により、企業の運営上一時的に必要となる運転資金。最大3,000万円
- 中小企業事業=取引企業など関連企業の倒産に伴い緊急に必要な長期運転資金。最大1億5千万円
参考元 取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)(外部サイト)
この2つに共通しているのは「緊急に必要」という部分です。
連鎖倒産のほとんどが、買掛金や経費の支払いが難しい状態になったことが原因となります。そのような時にこの融資を活用することで、資金繰りを安定させることができます。
取引企業倒産対応資金「セーフティネット貸付」のメリットとデメリット
- 融資可能限度額が高い
- 利率が銀行の融資よりも安い
融資限度額は国民生活事業で3,000万円、中小企業事業で1億5千万円とかなりの高額融資限度額です。
個人事業や創業者向けの融資でもここまでの額を申し込める金融機関は多くありません。中小企業向けの1億5千万円も、地方銀行の融資額としてはかなり高い部類に入るため、審査次第では申し込めない可能性もあります。
利率は担保の有無や貸付期間によっても変わりますが、国民生活事業で最大2.75%、中小企業事業で最大1.19%と破格な利率です。
中小企業事業の場合は、5年経過ごとに金利見直し制度を選択できます。
- 担保が必要になる場合がある
- 審査の結果利用できない場合もある
担保をもっていない場合には、担保を持っているよりも高い利率が適用されます。
とはいえ、最大2.75%であり、利率が低いとされている一般の金融機関の融資と比べても低い利率ではあります。
取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための融資サービスであるため、倒産した取引先への依存度などによっては審査通過できない場合もあります。
売掛金が回収不能で資金繰りの改善を緊急でしたい場合
売掛金が回収不能となり、資金繰りの改善を緊急でしたいならば、行政の融資では間に合わない場合もあります。
そのような場合には、資金調達までの時間が早い、ビジネスローンやファクタリングでの資金調達がオススメです。
ビジネスローンで売掛金回収不能で陥った資金繰りの悪化を回復する
ビジネスローンは金融機関の事業性融資と違い、簡易的な審査で資金を融資してもらえる金融サービスです。
金融機関以外でもノンバンクなどのビジネスローンが展開されています。
ビジネスローンの強みは申込みから資金調達までの時間が短い点です。最短で申し込んだ日から2営業日程度で資金の調達が可能です。利率は行政の融資サービスよりも高いですが、緊急の資金調達方法としては利用しやすい手段です。
参照 ビジネスローン
売掛金を売却できるファクタリングで返済不要の資金調達を行う
ファクタリングとは売掛金を専門の業者に売却して資金を調達する方法です。
融資と違い、月々の返済が必要ありません。売掛金さえあれば最短で申し込んだ即日での資金化が可能です。
ファクタリングのメリットとして、資金化までのスピードや借金にならないという以外に「審査通過しやすい」点が挙げられます。融資の場合は申し込んだ企業の財務状況などが審査でチェックされます。
- 売掛金が確実に存在していること
- 取引先の財務状況が安定していて売掛金の支払いが確実であるか
デメリットとしては「手数料が高くなる可能性もある」という点が挙げられます。取引方法にもよりますが、売掛金総額の30%以上を「売却手数料」として支払わなければならない場合もあるのです。
融資の利率が1桁台であることを踏まえると、よほどの緊急時以外は手数料を吟味して利用してください。ただし継続的にファクタリングを活用したいのではあれば、手数料がなるべく安いファクタリング会社を選ぶとよいでしょう。
ファクタリングは売掛金が不渡りになったとしても、権利ごと売却することになるため、元々の売掛元(あなた)企業は負担をしなくて済むのです。自社の状況に合わせて利用を検討してください。
参照 ファクタリング
大きな違いは、借金であるかそうではないかだ。
売掛金が取引先の倒産で回収できないなら他の方法で資金繰りを改善させる
売掛金が取引先の倒産で回収できないのであれば、行政融資で資金繰りは解決できます。しかし行政融資の場合は、申し込んでから入金されるまでは数週間のタイムラグが発生します。緊急で資金が必要な場合には、申込みから入金まで最短即日で資金調達が可能な「ファクタリング」や「ビジネスローン」などを検討してみましょう。
ビジネスローンの場合は、いくら緊急だとしても返済計画をしっかりと立てた上で利用してください。ファクタリングも、手数料などを考慮してファクタリング会社を選ぶようにしてください。
問題点をしっかり把握し、どれだけの金額が必要なのか、会社にとってどの資金調達が適切なのかを判断しなければならないのだ。
売掛金が取引先の倒産で回収できないからといっても諦める必要はありません。落ち着いて資金調達方法を検討し、自社に最適な方法で資金繰りを改善させてください。
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