約束手形の不渡りや紛失、盗難が原因で倒産してしまう会社があります。。
「約束手形」とは、お金を支払う側が受け取る側に対して渡す「この日までにお金を支払います」と約束する証明書のようなものです。つまり会社間の取り引きにおいて、買掛金を現金ではなく手形で支払うときに渡すのが約束手形となります。
お金が支払われることを証明するはずの約束手形が、場合によっては会社の危機を迎える原因となることがあるのです。
たとえば、約束手形で形式上はお金を支払う約束がされても、実際には受け取り側にお金が支払われないことがあります。また手形を紛失してしまう、もしくは盗難にあい、支払いを受けられないということもあるのです。
このようなお金の問題を防ぐために必要なことは次の2つです。
- 約束手形は厳重に保管しておく
- 万が一トラブルに巻き込まれた場合の対処方法を知っておく
手形はお金と同じ価値を持っているため、厳重に保管しておくのはもちろんのこと、万が一何かしらのトラブルが発生した場合でも、対処方法を知っておけばトラブルを回避することも可能なのです。
目次
約束手形が原因で起こりやすい会社間の問題とは?
本来なら約束手形があることで売掛金が入ってくると安心できるはずなのですが、逆に約束手形が原因となって会社間のトラブルを招いてしまうことがあります。
参照 約束手形とは支払いを約束する証明書 知っておきたい手形の基礎知識
約束手形の不渡り 売掛金が入ってこなくなる
手形で一番恐れることは「不渡り」です。不渡りとは、何かしらの原因によって約束手形が決済できないことです。つまり約束手形があるのにお金が受け取れないことを意味します。
約束手形には支払い期日が必ず書かれています。しかし換金できる支払期日に銀行へ行ったのに、換金できずにお金を受け取れないことがあるのです。
原因としては主に次の3つが考えられます。
- 呈示期間(ていじきかん)を過ぎている
- 約束手形の書式が間違っている
- 支払う側の当座預金に十分な残高がない
- 約束手形の紛失
- 約束手形の盗難
一言で不渡りと言っても、実は0号不渡り~2号不渡りまで種類が分かれています。世間で言う不渡りとは「取引先の当座預金口座にお金がなく手形を換金できなかった。不渡りを起こした。」というのは「1号不渡り」のことを指します。
呈示期間(ていじきかん)を過ぎている(0号不渡り)
現金化できる期間、支払い期日を含めた3日以内のことを呈示期間(ていじきかん)と呼びます。この呈示期間を過ぎてしまうと、現金化ができなくなるのです。
3日以内というのは、土日を挟む場合には土日を除いてカウントします。
約束手形の書式が間違っている(0号不渡り)
手形の書式が間違って書かれている場合にも換金することができません。たとえば支払い期日よりも後の日付で振出日が書かれていると、約束手形そのものが無効と見なされて現金化ができなくなります。
もし書式が間違っていることが判明したら、その段階で手形を振り出した取引先に連絡し、再発行してもらう必要があります。
支払う側の当座預金に十分な残高がない(1号不渡り)
約束手形の書式に不備がなく、呈示期間も過ぎていないのに現金化できない場合は、支払う側の当座預金に十分なお金がないことが考えられます。
これには取引先の財務状況の悪化が影響しています。手形取引をした場合に最も恐れる事態です。「手形の不渡り」と言ったら通常はこの状態のことを指します。
書式が間違っていないか、いつ銀行に来れば換金してくれるのか(具体的に〇月〇日まで聞く)などを聞いておくと、余計な心配をする必要がなくなる。
約束手形の紛失(2号不渡り)
約束手形を紛失してしまうと、お金を受け取れる証明がないので現金化できません。もし約束手形が手元にないのに現金化ができてしまったら、誰でも好き放題にお金を貰えることになります。
約束手形の盗難(2号不渡り)
約束手形は銀行に持っていけばお金に変えられる有価証券です。盗まれたら「お金が支払われる証拠」が手元からなくなるので、このままだと支払いは受けられません。
そのためにも、書かれている内容が正しいのかを確認する必要がある。さらに絶対に紛失しない、盗難にあわないように厳重に保管する必要もある。
しっかり管理したとしても、取引先の当座預金にお金が入ってなければ換金することはできない。不渡りというやつだ。
さまざまな障害があるため、取り扱いは慎重にした方がよい。
約束手形で起こる問題に対処する方法
手形が原因で問題が発生し、会社の経営が傾いてしまうといった話は一昔前であればよく聞く話でした。現在では手形での取引自体が減ってきたため、それほど聞かなくなりました。
とはいえ、現在でも会社間での支払いに手形を利用する事業者も存在します。
問題が起こる可能性があるとわかっているのなら、起こらないように対策しておくこと、そして問題が起きたときにスムーズな対処ができるようにしておくことが重要です。
約束手形の不渡りを回避する方法
不渡りが起こる原因を振り返ってみましょう。
- 手形での支払いを受け付ける
- 呈示期間を過ぎている
- 約束手形の書式が間違っている
- 支払う側の当座預金に十分な残高がない
- 手形の紛失
- 約束手形の盗難
手形での支払いを受け付ける
そもそもの話ですが、手形での支払いに応じないようにすればよいのです。これが一番シンプルでベストな対処法です。
契約の段階で契約書に、手形での支払いは受けつけないという内容を記しておけばよいのです。さらに口頭でも確認しておくとよいでしょう。
呈示期間を過ぎている
約束手形の扱いに慣れない方からすると、呈示期間というものがあること自体、知らないケースもあることでしょう。また呈示期間について知っていても誤って期限が過ぎてしまったなんてことも考えられます。
このようなことを避けるためにも、あらかじめ早い段階から手形交換所に約束手形を預けておくことも有効です。手形交換所とは約束手形を現金化できる場所のことで、前もって預けておくことも可能です。約束手形を預けると手数料が発生するものの、呈示期間を逃して現金化できなくなる心配がなくなることは大きなメリットになります。
約束手形の書式が間違っている
約束手形は、振出日の他に「金額の訂正がされていないか」や「受取人と第一裏書人が一致するか」などを確認しておくことが重要です。金額の訂正や裏書の書式などを間違えると、裏書譲渡されたとしても資金化できなくなってしまいます。無用なトラブルを避けるためにも、受け取った約束手形にミスがないかの確認は必須なのです。
支払う側の当座預金に十分な残高がない
当座預金の残高不足はお金を受け取る側でなく、支払う側、つまり手形の振出人(最初に手形を発行した企業)の問題となるため、対処は難しくなってしまいます。約束手形を譲渡されたのに当座預金の不足で現金化できなかった場合は、受け取るべき金額を譲渡人に対して請求することが可能です。
約束手形の紛失・盗難を対処する方法と対策
手形を換金する前に紛失や盗難のリスクをなくすためには、早めに手形交換所(銀行)に預けておくという方法もあります。
もし自分で保管していて紛失や盗難があった場合は、約束手形の支払い停止手続きを行いましょう。もし手形が第三者の手に渡ってしまうと、「手形法の善意取得」の制度にもとづいて第三者に約束手形の権利が移ってしまう可能性があるのです。
約束手形を拾った人、盗んだ人にお金が渡らないようにするためにも、「事故届」を必ず提出してください。
しかしこの事故届は、紛失や盗難をされた自分自身では申請を出せません。約束手形を発行した振出人にしか届出が出せないのです。そのため紛失や盗難があった場合は、振出人に事故届を出してもらうように依頼をしないといけません。
しかし中には、紛失や盗難があっても振出人が面倒臭がって事故届を提出しない可能性もあります。もし紛失したまま支払いが行われなければ、振出人の口座からお金が引き落とされることもなく、得をすることになってしまうため、協力的になってくれない振出人がいてもおかしくありません。
これらの場合は、手形交換所に紛失や盗難があったことを伝えてください。盗難の場合は、警察へ被害届も出します。そして裁判所で公示催告の申し立てを行ってください。もし公示催告期間中に権利届出がない場合は、「除権決定」といって、手元に約束手形がなくても支払いを受けられるようになります。
手形詐欺「パクリ屋」に注意!
パクリ屋とは簡単にいうと、手形詐欺師のことです。わざと無効な約束手形を渡し、お金を受け取れないようにする悪質な手口「パクリ屋」です。
パクリ屋とは
パクリ屋の手口は段階的に行なわれます。最初は少額の取引を行って相手を信用させます。1回でも取引があれば、「この企業はお金をきちんと支払ってくれる」と警戒心が薄れてしまうものです。
徐々に取引額を上げていき、手形の扱い金額が高額になったところで使えない約束手形を渡したり、約束手形を渡したまま会社と連絡がつかなくなったりするのです。
まれに盗まれた手形を渡してくることもあります。パクリ屋は先に商品を受け取っているので、商品だけ貰ってお金は支払わないことになります。
パクリ屋に騙されないための対策方法
約束手形を受け取るときに注意すべきポイントは次の4つです。
- 「約束手形を無効にできる旨」の記載が書かれていないか
- 振出日から支払い期日までの期間が長い
- 廻し手形でないか
- 裏書が連続しているか
「約束手形を無効にできる旨」の記載が書かれていないか
約束手形には、さまざまな事柄が記入されています。記入されている内容に有害的記載事項といって、手形が無効になる旨の記載がある場合は要注意です。有害的記載事項が書いてある場合は詐欺の可能性が高くなります。
振出日から支払い期日までの期間が長い
振出日から支払い期日までの期間が長すぎるものも詐欺を疑いましょう。振出日から支払い期日までの期間は、一般的に30日・60日・90日・120日程度です。しかし中には、360日と長いものもあります。あまりに期間が空く場合、支払い期日までに振出人の企業が倒産するリスクもあるので注意しないといけません。
廻し手形でないか
廻し手形でないかを確認することも重要です。廻し手形とは、裏面に譲渡人と被譲渡人が書かれている「裏書譲渡」のことです。誰かから譲られてきた約束手形で、取引先ではない企業からお金を受け取ることになります。廻し手形に書かれている企業が知らない会社の場合は、信頼してもよい企業なのか信用調査が必要です。
裏書が連続しているか
廻し手形の裏書内容(譲渡人と被譲渡人が連続していない約束手形にも注意しましょう。本来なら、約束手形の裏面にある署名や捺印は連続しているはずです。もし連続していない場合は、自分が約束手形の支払いを受ける権利があると証明しなければなりません。
証明ができなければお金は受け取れないため、裏書が連続していることはとても大切なのです。
約束手形問題のほとんどは事前の対策が重要
約束手形で起こる問題は、どれも事前対策が重要になります。支払い期日はいつなのか、書かれている内容は合っているか、裏書は連続しているかなど、受け取った時点で早めに確認しておきましょう。
パクリ屋などの詐欺に合わないように注意してください。約束手形を自分で保管しておくことが不安な場合は、手形交換所へ預けておくのも選択肢の1つです。
結局のところ、できるだけ手形での支払いには応じないことが最大の対策となります。支払いを受ける側からすると、手形での支払いはメリットよりもデメリットの方が目立ちます。そのためには、取引を行なう前段階で、契約書に支払いに手形は利用できない旨をしっかりと記載し、さらに口頭でも伝えることが大切となることでしょう。