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会社不動産を活用した資金調達法として「不動産リースバック」が注目されている
いまだ終息しない新型コロナウイルス。日本経済に与えた影響は甚大で、コロナ関連の企業破たんは増え続けています。今年(2020年)2月からの累計で、1,000万円以上の負債を抱えた破たんだけでも500件に迫る勢いであることが先日報じられました(2020年9月現在)。
参照 「新型コロナウイルス」関連破たん状況(東京商工リサーチ)
コロナ禍の中、現時点で特に苦境に立たされている業種は飲食業やアパレル関連、宿泊業などですが、今後関連産業を皮切りに、さらに多くの業種へ波及することが予測されます。
コロナ破たん・コロナ不況が人々のライフスタイルの変化によるものである以上、ウィズコロナの時代を生き抜くためには、思い切った新たな事業展開が必要と考える企業も多いことでしょう。
しかし、新たな事業展開となれば必要となるのが新たな設備投資。直ちに直面するのが資金調達の問題です。コロナ不況で売り上げが減少し、キャッシュフローが停滞しているいま、新たな多額の借り入れは非常に困難であるでと言わざるを得ません。
このような状況下で注目されるのが、会社不動産を利用した資金調達、なかでも不動産リースバックという方法です。
不動産リースバックであれば、単純に不動産を売却するよりも圧倒的に早く、同じ不動産を担保として融資を受けるよりも多くの資金を調達でき、さらにその不動産をそれまで同様に使用し続けることができるのです。
不動産リースバックとは?
不動産リースバックとは、セール・アンド・リースバックという金融取引の一つです。
セール・アンド・リースバックの流れを簡単に説明すると
- ①固定資産(1年以上保有・使用する資産)をリース業者に売却し(→セール)
- ②売主が、リース会社からその固定資産を再びリースで借り(→リースバック)、これまで通り使用する
となります。
セール・アンド・リースバックの対象となる固定資産はさまざまで、先日は米国の航空会社が、コロナ禍で収益が悪化したため、自社の保有する飛行機をセールアンドリースバックすることにより資金を調達したというニュースがありました。
今回取り上げる「不動産リースバック」は、文字通り固定資産である「不動産」を売却したうえで「リースバック」するという取引です。
不動産リースバックの最大のメリット:会社の不動産をこれまで通り利用しながら、大きな事業資金が調達可能
不動産リースバック自体は古くから行われてきたものですが、近年大きく注目されるようになりました。
「住み続けながら自宅を売却、豊かな老後資金を確保」
このように謳うテレビコマーシャルが最近増えてきました。ご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。実はこれこそ、「不動産リースバック」に他ならないのです。
老後資金の必要額2000万円。このような報道が世間に大きなショックを与えたことも記憶に新しいですが、長引く不況の中、いかに老後資金を確保するか、その手段が模索されてきました。このような状況下において、不動産リースバックは、不動産という大きな資産を活用し、住むところを失わず、老後資金も確保することができる手段として大きく注目されました。その利用者は右肩上がりに増加しています。
そしてこの不動産リースバックは、得た資金を事業性資金に充てることができるのも大きな特徴です。そのため、事業資金を得たい事業者にとっても有効な資金調達手段として注目されてきています。ある調査では、不動産リースバックをした人のうち、事業資金を得る目的の割合が増加傾向にあることが明らかになりました。事業者にとっても、「不動産を使用しながら現金化可能」という点は大きなメリットとなるのです。
引っ越し不要。リースバックで売却した事務所や倉庫はこれまで通り使用可能 取引先やライバル会社に資金繰りを悟られないメリットも
単純な不動産売却と比較して、不動産を使用しながら現金化可能という点が不動産リースバックの大きなメリットです。
事務所や倉庫の売却となれば、移転作業が必須となります。この点、不動産リースバックでは売却した事務所や倉庫はこれまで通り使用可能です。したがって、膨大な手間と時間がかかるうえ、その作業自体は利益を生まない移転作業を回避することができます。
リースバックする不動産が小売店や飲食店など、一般のお客さんを相手にする事業の店舗の場合、「これまで通り使用できる」というメリットはさらに大きなものとなります。店舗についたなじみ客、常連客を失わずに済むからです。集客にとって店舗の立地は最重要項目のひとつ。店舗移転によって失った常連客を再び獲得することは非常に困難なのです。
また、これまで通り使用できるということの利点として、取引先やライバル会社に資金繰りを悟られないという点も挙げられます。リースバック契約した不動産は、売主がそれまで通り使用することができるため、外見上はリースバック前後でなにも変化がありません。
もし事務所を移転することになり、それがこれまでより明らかに不便な場所や狭い物件だったりした場合、取引先やライバル会社に資金繰りを勘繰られ、信用を失うかもしれません。表面上の変化なく事業継続できるリースバックなら、この点の不安はありません。このようにリースバックの利点として近隣や取引先などに不動産を売却したことを気付かれず、資金繰りを勘繰られないという点もあげられます。
まだまだある、不動産リースバックのメリット
不動産リースバックの大きな利点である「不動産を使い続けながら資金調達ができる」点についてみてきました。もっとも、リースバック同様、不動産の使用を続けながら行う資金調達として「不動産担保ローン」があります。
不動産担保ローンとは、不動産を担保にして融資を受けるという金融方法。不動産を利用した資金調達法としては、不動産リースバックよりむしろこちらのほうが一般的といえるかもしれません。リースバックが「売買」であるのに対し、不動産担保融資は「融資」である点大きく異なります。
そこで以下では、不動産リースバックならではのメリットについて、不動産担保ローンとの比較も交えながら説明していきます。
メリット① 大きな資金が手に入る
不動産リースバックでは、リースバック会社が不動産を一括で買い上げます。もともと資産価値が大きい不動産の売却を出発点とするので、一度に大きな金額を調達することが可能となります。諸費用やリースバック会社の利益などがかかるため、不動産リースバックで得られる金額の相場は不動産の資産価値の70%前後とされます。
これに対し、不動産担保ローンの場合も大きな金額の資金調達が可能ですが、多くの場合、融資可能額は不動産の価値の5割程度。一度に調達できる額ではリースバックのほうが多くなるケースがほとんどです。
メリット② 調達した資金の使途が自由
不動産リースバックでは、ほとんどの場合資金使途は自由とされ、事業者が自由に幅広く活用できます。この場合もちろん事業性資金にも利用可能です。
一方、不動産担保ローンでは、資金使途があらかじめ決められることが多く、とくに銀行が貸主になる場合は事業性資金に使えるローンはほとんどありません。この点、事業者にとって、不動産リースバックは非常に使い勝手が良いといえます。
メリット③ スピーディー。2週間程度で資金調達可能な場合も
不動産リースバックは不動産売却を伴いますが、通常不動産を売却する場合、当然ながら買い手がつかなければ現金化できません。不動産のような大きな資産の場合、売りに出してから買い手が現れるまで数か月から数年かかることも珍しくはないのです。このご時世、買主を探すことも至難の業でしょう。
これに対し、リースバック会社が一括で買い上げる不動産リースバックの場合、非常にスピーディーな資金調達が可能です。
また、不動産リースバックでは、多くの場合審査に要する時間も短くすみます。この点、不動産担保ローンも通常の無担保ローンとの比較では審査機関が短いことが多いのですが、不動産リースバックの場合さらに短く済むことがほとんどです。これは後述するように審査内容に差異があるためで、2週間程度で資金調達できる場合もあります。
メリット④ 不動産担保ローンの審査に落ちても利用できる可能性がある
不動産リースバックの場合、不動産担保ローンの審査に落ちても利用できる可能性があります。
不動産リースバック、不動産担保ローンの双方とも、審査において大きな部分を占めるのがその不動産自体の資産価値です。この点に差異はありません。
しかし不動産担保ローンの審査では、不動産自体の資産価値の審査に加え、会社の経営状態等も厳しく審査されます。なぜならば、不動産担保ローンの場合、その本質はあくまで「融資」であり、貸主は利子によって利益を得、また、返済は借主の会社の事業利益から充てられる、というのが基本となるためです。
そのため、銀行などの貸主は、借主の返済能力を判断するため、借主の会社の財務関係や借り入れ状況など、様々な数字を調べあげます。そして、この先借主が事業収益を上げ続け、問題なく弁済できるとの見込みが立って初めて融資を実行します。
もちろん貸主は、融資が回収不能になった場合は、担保不動産の抵当権実行、つまり担保となった不動産を売り払って、そこから融資した金額を回収します。しかし抵当権の実行による債権の回収は手間も時間もかかります。ほかの債権者との面倒な折衝も必要となるかもしれません。抵当権の実行は、あくまで非常事態時の手段であり、借主だけでなく貸主にとっても極力避けたい場面なのです。このような事態を避けるため、借主がこの先ずっと返済することができるかを見極める必要があり、審査も厳しくなるのです。
これに対し、不動産リースバックの場合、不動産の「売買」を出発点とする取引であり、リースバック会社は不動産の所有権を最初に得ることができます。不動産という大きな資産をすでに得ているため、仮に売り主がリース料を払えない事態になってもマイナスにはならない点で、ローンの場合とは異なるのです。もちろんリースバック会社にとっても、リース料で得る収益は大きく、売り主がリース料を払い続けられるかについても重視します。
そのため、売主の財務関係等について、今後もリース料を払い続けられるかという点から審査し、その結果不動産リースバックが利用できないこともあり得ます。しかし不動産リースバックの場合、最初の契約の時点で土地を手に入れているため、今後の収益の見込みという点の審査はローンの場合よりはゆるくなることが多いのです。
メリット⑤ バランスシートがスリムに
企業が保有する不動産は、貸借対照表(バランスシート)では資産の部に記載されます。この不動産をリースバックした場合、所有権バランスシートから消滅することとなります。バランスシート上の資産が減少することとなり、バランスシートがスリムになります。
資産の額が減少することにより、総資産利益率(財務分析の指標で、総資産に対し利益がどのくらい生み出されたのかを示すもの)の改善も見込め、キャッシュフローの改善が期待できます。不動産担保ローンでは負債の項目が増え、このような効果は見込めません。
メリット⑥ 不動産の管理コストが削減できる
不動産を所有するには、施設の維持管理にかかる費用、人件費など、多くの管理コストがかかります。また、固定資産税を納めなければなりません。一方、リースバックをした場合、その不動産の所有権はリースバック会社に移るため、売主の固定資産税の負担がなくなります。また施設の所有者として必要な管理・維持コストが削減できます。
メリット⑦ 将来買戻すことも可能
リースバックする不動産は、契約時に買戻しの特約をつけることにより、将来的に買戻しをすることが可能です。
通常、一度手放した不動産を買い戻すことは大変困難です。買主が自分で使用するためにその不動産を買ったのであれば、その物件が再び売りに出ることはまずないでしょう。また、転売目的の場合、分筆されたうえで売られることもよくあります。先祖伝来の広くて利便性の良い土地など、一度売却したが最後、買い戻すことは不可能といってもよいでしょう。
これに対し、買戻しのオプションを付けたリースバックであれば、リース料の延滞などをしない限り、確実に買い戻すことが可能です。買戻しの時期は、リースバック契約の際に決められるのが通常ですが、契約によっては任意の時期に買い戻すことができる場合もあります(この場合でも、半年程度は買戻しができない期間が設定されることがあります)。この場合には、買戻し資金が整った時点で買い戻すことができるため、できるだけ早く買い戻すという目標ができ、事業展開への大きなモチベーションとなるでしょう。
では逆に、もし仮にリース期間中に買戻し資金を用意できなかった場合はどうなるのでしょうか。リースバック契約において買戻しされることなく当初のリース期間が終了した場合、リース契約を更新しその不動産を使い続けることができる、とすることが多いようです。ただし、これはリースバック契約でどのように取り決めるかに左右されますので、契約時にこのような事態を想定して契約内容をしっかり吟味することが必要です。
ここには注意、不動産リースバックのデメリット
不動産を使用しながら大きな資金を調達できる不動産リースバックは、事業者にとって使い勝手のよい資金調達手段であることを見てきましたが、当然ながらデメリットもあります。特に契約の最初の段階で売買が行われるため、不動産の所有権を失う点は見逃せないデメリットといえるでしょう。以下、デメリットについてもみていきます。
デメリット① 所有権を失う
まず最大のデメリットとして、不動産リースバックは不動産の売買が行われるため、その不動産の所有権を確定的に失うということが挙げられます。この点が不動産担保ローンとの大きな違いです。ローンの場合、仮に返済を焦げ付かせても抵当権を実行されるまでは所有権を失わないのとは大きく異なります。
また、不動産の所有権を失う結果、その不動産の使用方法についてリース会社等の新所有者の意向に従わなければならなくなります。所有者であったこれまでのように、自由な利用はできなくなるのです。
さらに、必ず買戻しができるとは限らない点も看過できません。多くの場合、リースバック契約に付帯する買戻し特約では、リース料の延滞等が発生した場合はその特約が無効となる旨定められます。会社の業績が思うように伸びなかった場合、買戻しができなくなるという綱渡りを強いられることになりうるのです。
デメリット② リース料を払い続ける必要がある
当たり前ですが、リースバックした不動産を使い続ける限り、リース料金を払い続ける必要があります。そしてリース料をどれだけ支払おうとも、それにより不動産の所有権が回復することはありません。この点、返済を続けていけばいずれ債務が消滅する不動産担保ローンと大きく異なります。
デメリット③ リース料金が周辺の家賃相場と比べて高くなる場合がある
リースバックした不動産のリース料は、周辺の家賃相場と比べ高くなる場合があります。その理由は、賃料の算定基準が一般的な賃料の決め方とは異なるからです。
通常の賃貸借契約の場合、その立地や広さ、利便性によっておのずと賃料の相場が決まっています。その相場より明らかに高い賃料設定では、当然ながら借り手はつきません。したがって、賃料は周辺地域の家賃相場によって決まってくるものです。
一方で不動産リースバックの場合、リース料は不動産の売却価格に基づいて決定されます。その金額はリースバックで売却した価格の8~13%程度とされることが多いようです。つまり、周辺の家賃相場とは関係なく、売却価格によって賃料が算出されるのです。そのため、売却金額によっては周辺相場より高いリース料を払うこととなる場合があります。
デメリット④ 買戻し時の物件価格が相場より高くなる場合が多い
不動産リースバックでは、契約を結ぶ際、特約をつけることで買戻しが可能になります。これは確かに大きなメリットなのですが、一方で買戻し時の価格は売却時の価格より高くなるのが通常です。これは不動産売却時の価格に、売買にかかる諸費用や利益が上乗せされるためです。買戻し価格の相場は、売却時の金額に10パーセントから30パーセント分上乗せされることが多いようです。
不動産は大きな資産。事業主にとって不動産リースバックは非常に魅力的だが、デメリットも考慮したうえでしっかり計画すべき
自宅兼事務所の個人事業主や自社ビル、自社倉庫を所有する企業にとって、不動産は大きな資産。売り上げの見通しが立たず、キャッシュフローが滞っている事業主にとって、不動産を利用した資金調達手段である不動産リースバックは非常に魅力的であるといえます。
不動産リースバックには、早急に、大きな額の資金調達が可能というメリットもある一方で、所有権を失うという大きなデメリットもあります。したがって、もしも審査に通り、また必要な資金額が賄えるのであれば、不動産担保ローンを利用するほうが無難である場面も多いといえます。
資金調達の手段として不動産リースバックを検討しておくこと自体は決してマイナスにはなりません。必要な資金の額、将来的な収益の見通しなどを十分に吟味したうえで、最も適した資金調達手段を模索していきましょう。