資金調達をした事実を取引先に知られたくないと考える事業者は少なからずいます。
結論から言いますと、基本的には取引先に知られることはありません。ただし資金調達をした後に何かしらのトラブルが発生した場合にはその限りではありません。
2つのことに気を付けてみましょう。
- 自分自身が漏らさないこと
- 秘密保持契約、もしくはそれに類する契約を行うこと
そもそもですが資金調達自体はネガティブなものではありません。ただし「何を目的として資金調達の必要があったのか?」という点で、ネガティブにもポジティブにも捉えることができます。
目次
基本的にどの資金調達方法でも誰にも知られない
まず前提として、どの資金調達方法を利用して資金調達を行ったとしても、取引先にその事実を知られることはありません。
参照 資金調達方法
ただし何かトラブルが発生した場合には、取引先に知られる可能性はゼロではありません。
債権登記によって知られる可能性はなくはない
たとえば「ファクタリング」。ファクタリングは持っている未回収の債権をファクタリング会社に譲渡(売却)することで資金調達する方法ですが、債権を譲渡するため場合によってはファクタリング会社が債権を登記します。
つまり「この債権の所有者は私です」と登録するわけです。
この際、登記情報は公開されることになるため、この情報を取引先が見ればファクタリングを利用して資金調達を行った事実を把握することができます。ただし一般的に登記情報を確認する会社はほぼないため、あまり心配する必要はないとされます。
ただしファクタリングを利用した場合、ファクタリング会社として債権に不安を抱えるトラブルが発生した場合には、取引先に債権が譲渡されたことを通知することがあります。債権に不安を抱えるトラブルというのは、約束の日時になっても事業者がファクタリング会社に対しお金を送金しなかったり、何度連絡をしても事業者と連絡が取れなかったりと、ファクタリング会社と契約をした時に交わした契約内容が守られていないときの話です。
そのため、どの資金調達においても言えることですが、特に問題がなければ取引先に資金調達の事実を知られることはありません。
心配なら秘密保持契約(NDA)を交わすこと
どの資金調達においても人間が関わり契約が行われるため、絶対ということはありません。
そのため心配であれば秘密保持契約(NDA)を交わすことをおススメします。つまり「特定の契約において情報は外部に一切漏らさない」という約束を書面でかわすのです。
ただしこの契約を交わしたところで、絶対に情報が漏れないということではありません。情報が洩れ損害賠償を求める場合に多少役に立つ程度と思っておけばよいでしょう。
経済産業省の「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」というページの中に「営業秘密関係の基本資料」があるため、参考にしてみるとよいでしょう。
実は情報は自分が漏らしているケースが多い
どの資金調達を利用したとしても、基本的に資金調達した事実が外部に漏れることはありません。なぜなら資金調達方法を利用したとしても契約書を交わすことが前提であり、そこには守秘義務についての項目があるためです。
実は秘密の情報は、意外にも資金調達をした本人から漏れてしまうことがあるのです。
たとえば、自分ではそのつもりはなかったとしても、取引先や自社の社員との話の中でポロっと話してしまったり、連想させるような話をしてしまったりしてしまうのです。
表情でも読み取ることができます。今までは資金難で暗い態度であったのにもかかわらず、ある日を境に急に明るくなったり。
「ここだけの話ね」といった具合で秘密を話してしまったり。
自分では意識していなかったとしても、意外と自分で自分の秘密を他人に話してしまうケースがあるのです。人というのは秘密を一人では抱えにくいもの、そして知った秘密も一人では抱えられず人に話したくなるものです。
仕事上で発生した内容、そしてその内容が大事であればあるほど「秘密保持契約を結ぶこと」が基本となります。ただしですが、秘密保持契約を結んだところで絶対に情報が外部に漏れないかというとそのようなこともありません。
なのでもし資金調達した事実を外部に知られたくないのであれば、自分自身の言動に細心の注意を払う必要があるでしょう。
脳は常に戦っている
面白い記事を見つけました。人間の脳は秘密を守ることが好きではないとのことです。そして「情報を伝えたい脳」と「情報を隠しておきたい脳」が常に戦っている状態とのことです。
神経科学者であり作家でもあるデイビッド・イーグルマン博士は以下のように言っています。
You have competing populations in the brain — one part that wants to tell something and one part that doesn’t,” he tells Fresh Air’s Terry Gross. “And the issue is that we’re always cussing at ourselves or getting angry at ourselves or cajoling ourselves. … What we’re seeing here is that there are different parts of the brain that are battling it out.
脳内には何かを伝えたい部分とそうではない部分がある。問題は私たちは常に自分を罵ったり、自分に怒りを感じたり、自分を説得しているということだ。
参照 ‘Incognito’: What’s Hiding In The Unconscious Mind
つまり人間の脳というのは、秘密を言いたいという感情と、秘密を言いたくないという感情が戦っている状態であり、それはストレスとなっている。そして脳はストレスを嫌うということらしいのです。
となれば、ストレス要因を外部に発散する可能性は少なからずあり、これによって秘密が漏れてしまう可能性があるということです。
第三者だから大丈夫・・・とは思わないこと
資金調達した事実を取引先に知られたくなかったとしましょう。でも誰かに話したい。
そんなときに取引先とは全く関係のない人物に話をしようと考えたとします。
これも危険な行為です。
世の中というのは意外と狭いものです。どこでどのように人が繋がっているか分かりません。とくに経営者の場合、情報交換を積極的に行っているケースが多いです。その際に情報が伝わってしまうことはあり得る話です。
取引先は資金調達したことをどのように感じるか?
資金調達を行うことがマイナスのイメージを持たれてしまうと心配している人がいるようです。すべてがそうとは限らず、ケースバイケースといえるでしょう。
ポイントは「なぜお金が必要であるのか?」という資金調達の目的です。
たとえば「ベンチャー企業が資金調達を行った」といった内容のニュースを目にすることがあるかと思います。これに対しマイナスのイメージを持つでしょうか?成長著しい会社であると判断されることと思います。
ところが会社の運転資金のために資金調達を行った場合は話が変わってきます。運転資金とは会社が事業を行っていく上で必要とする資金のことです。
すべてが当てはまるとは言いませんが、大抵の場合、会社に資金が不足しているために資金調達をするわけです。つまり資金難ということです。このような場合における資金調達は、マイナスのイメージを持たれる可能性があります。
「あの会社は資金難で資金調達をしたらしい。つまりあそこと付き合っていたら売掛金の回収でトラブルが発生するかもしれない。もしかしたら売掛金が回収できないなんてことも。取引を続けるのは難しいな。」
このように判断されてしまった場合には、取引先が離れてしまうかもしれません。
資金調達に理解を持つ取引先も
少し話が矛盾するかもしれませんが、事業者の中には資金調達をすることを前向きに捉える人がいます。取引先がそのような考えを持っていれば、資金調達をしたことが知られたからと言ってネガティブにとらえられることはありませんし、むしろプラスの印象を与えることができます。
「売掛金は早めに回収し、買掛金はなるべく遅く支払う」
このような考え方があります。売掛金を早く回収し買掛金の支払いを遅らせることで、会社に現金が残ることになります。自由に使える現金が手元にあるのかないのかは大きな違いです。
そのため、たとえば売掛金がある場合には、すぐにファクタリングを利用して現金化したほうがよいと考える事業者はいます。
売掛金は売り上げを受け取れる権利を持っているだけですので、手元にお金が実際にあるわけではありません。もし取引先が倒産してしまったら回収が困難、もしくは回収ができなくなってしまいます。
それであるならば、早めに確実に売掛金を現金化しておくというのは考え方の1つでしょう。
また取引先からしてみれば、取引先が売掛金を売却しようがしまいが関係はないのです。支払う買掛金の金額は変わらないためです。
「あの会社は売掛金をどんどん現金化して、その現金で次の施策に打って出ている。成長が早い。」
このように判断されることもあるのです。
それとなく相談してみるのも良い
取引先が資金調達について、どのような考えを持っているのかはなかなか分からないものです。
そのため、それとなく話をしてみるのもよいでしょう。
世間話程度で、「取引先によっては、なかなか売掛金を支払ってくれないことがあります。そういったとき、御社ならどうします?」といった内容です。
- すぐに回収したほうがいいよ
- 待っていた方がいいよ
- 資金調達したほうがいいよ
- 債権を売却したほうがいいよ
- 取引先を選びなおした方がいいよ
など、さまざまな意見が出てくることでしょう。このような話の中で、取引先がどのように考えているのかを想像することは可能となります。
ファクタリングが取引先に知られない資金調達方法だと言われているが
資金調達にもいろいろな方法があるのですが、その中でも「ファクタリングが取引先に知られない唯一の資金調達方法」のように表現しているケースがありました。
そんなことはありません。
前述しているように、どの資金調達方法を利用したとしても、その情報が外に漏れることは非常に考えづらいですし、もし情報が外に漏れるようなことがあったら大問題です。
ただしどの資金調達においても人間がかかわっていることであるため、絶対ということはありません。
確かにファクタリングで資金調達した場合には、取引先に知られないような仕組みになっています。しかしこれはあくまでも「基本的には」の話です。「債権登記によって知られる可能性はなくはない」でもお話ししている通り、取引先にファクタリングを利用したことを知られる可能性は、極めて低いですがゼロではない状態となります。
なので、ファクタリングでの資金調達では絶対に取引先に情報が漏れないかというと、そんなことはないのです。そしてそれはどの資金調達方法でも言えることなのです。
友人・知人・取引先から資金調達したらリスクは高くなる
資金調達の方法はさまざまで、友人や知人、そしてその他金融機関以外から資金調達するケースもあります。
この選択は一般的な資金調達に比べると、情報が外部に漏れやすいのは否めません。なぜなら秘密保持契約を結びづらいですし、相手は金融のプロではないため金融に関する意識が低いためです。
秘密保持契約には否定的な意見も
秘密保持契約を結ぶ上で得なのは資金調達する側です。
「私があなたから資金調達したという情報は秘密ですよ。もし情報を漏らしたら法的手段を取りますよ。」と言われているのと同じなのです。
これは資金を提供する側にとってはメリットがないのです。それにも関わらず制限をかけられてしまうのです。このような条件では秘密保持契約を結ぶことはおろか、お金を出してはくれないことでしょう。
結果として、資金調達をしたという事実が外部に漏れる可能性が残ってしまうのです。
取引先には基本的には知られない
まとめですが、一般的によく利用されるいかなる資金調達方法を選んだとしても、基本的には取引先に知られることはありません。
ただし2つのことに気を付けてください。1つは自分自身が漏らさないこと。もう1つは秘密保持契約、もしくはそれに類する契約を行うことです。
これらを意識することで、かなりの高確率で資金調達した事実が外部に漏れることはなくなることでしょう。