ここでは手形の基礎知識を紹介していきます。
手形は会社間での取引で利用される決済方法なのですが、近年、手形を利用しての決済は少なくなってきました。それでもいまだに利用している会社もあるため、ある程度の基礎知識を身に付けておいた方がよいでしょう。
はじめに簡単に手形についてお話しておきたいと思います。
たとえば買い物をするときの話です。商品を手に入れるためにお店に商品代金を支払います。つまり商品と現金を交換したということです。
他の方法としては、商品を手に入れるために商品券で支払いをすることもあります。現金でない商品券で支払いができる理由は、商品券に現金の価値があるためです。
手形も同じことです。会社間での取引において、基本的には現金で支払いが行われます。しかし現金と同じ価値のある手形を利用して支払いをすることができるのです。そしてこの手形には、「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。約束手形は2つの会社の間での取引で、為替手形は3つの会社の間での取引で利用されます。
日本では長い間、手形での支払いがよく利用されてきました。現在は手形での取引が減ってきています。とはいえ、利用している会社があるのも確かです。
今回はとくに手形の中でも利用されやすい「約束手形」に焦点をあてて紹介していきたいと思います。
目次
手形とは有価証券 現金と同じ価値のあるモノ
まず約束手形とは、指定された支払日に手形に記載されている金額の支払いを約束した有価証券のことです。
支払いの段階で会社に資金がなくても、約束手形を取引先に渡すことで決済したことになります。これにより約束手形の支払期日までに現金を用意すればよくなり、時間的猶予ができるわけです。その猶予期間中に資金調達をすることで取引が成立するのです。
経営者にとって非常に便利な決済方法ですが「手形を落とす」や「不渡りを出す」など、特殊な専門用語が多く、はじめて手形を利用する人には少々わかりにくい点があります。
手形での取引は手形法という法律が関わってくる。つまり支払いを受ける側にしてみれば、口約束よりも全然信頼性が高いことになる。
ただ気を付けなければならないのは、支払う側としては必ず約束の日までに支払わなければならない。できなければ不渡りという状態になってしまう。これは倒産に直結すると言われている。
手形には支払手形と為替手形がある
手形は大きく分けて2種類に分類されます。
- 為替手形
- 約束手形
「為替手形」は主に輸出入業で使用されており、日本国内の商取引ではほとんど使われません。現在、日本の経済界において手形といわれるものはすべて「約束手形」となります。
「約束手形」とは、手形を発行した人(振出人)が手形の受取人に対して、決められた期日に決められた代金の支払いを約束した有価証券です。「今はお金がありませんが、近い将来確実にお金が入りますので、それで支払いができます」ということを約束したものです。資金に余裕がない時などに支払いを先延ばしにする手段として活用されています。
約束手形には次のような内容が記載されています。
- 手形の種類
- 金額
- 支払い約束の文言
- 振出人の住所
- 振出人の会社名または個人名
- 受取人の名前
- 支払期日
- 振出人の当座預金口座届け出印による押印
また、金額(額面)が10万円以上の場合、金額に応じた印紙の貼付が必要になります。約束手形に必要な額の印紙を貼り、法人用の届け出印で割印する必要があります。
※割印・・・収入印紙と約束手形の繋ぎ目にまたがって押印すること
約束手形は有価証券です。つまりそのもの自体に価値があるものということです。似たような決済方法として「小切手」が挙げられます。小切手は相手に渡した時点で口座にお金を預けておかなければなりません。しかし約束手形の場合は、振り出した時点でお金がなくても期日までに入金しておけば取引可能になるのです。
約束手形は、一般的に取引発生から2ヶ月~3ヶ月後の支払い約束になる場合に利用されています。
経済界が大きなダメージを負うごとに、手形取引から掛取引に切り替わっているケースが多いんですよ。
約束手形取引の流れ
手形取引の具体的な流れについて、製造業を例にして説明します。
企業Aが企業Bから商品製造の注文を受けました。企業Aが商品を製造するためには、企業Cから原料を仕入れなければなりません。原料費の支払いには500万円が必要です。
しかしその時点で企業Aには、手元に500万円はなく、企業Bから売掛金を回収してはじめて手元に資金が入ってくる状況です。
そんな時に活用できるのが約束手形です。企業Aが企業Cに500万円の約束手形を振り出して、企業Cが受けることで原料を仕入れられます。後日、約束手形の期日に企業Aは企業Cに500万円の支払いをします。
実際には約束手形の期日に企業Aが企業Cの口座に500万円を振り込むわけではありません。企業Aは期日までに自社の取引銀行に開設した当座預金に500万円を入金しておきます。企業Cは、期日を含む3営業日以内に自社の取引銀行に出向き、約束手形を渡して500万円を受け取るのです。
約束手形を振り出すためには、企業Aは事前に銀行と「私が振り出した約束手形を代わりに支払いをしてください」と委託契約を結ばなくてはいけません。これを当座勘定契約といいます。
また、企業Cは企業Aの取引銀行にわざわざ行かなくても、自分の取引銀行に約束手形を持っていけば、お金を受け取れるという特徴があります。会社間の取引では、お互いの取引銀行の距離が離れている場合も多く、振出人の取引銀行まで行くことが難しい場合もあるためです。
銀行で手形を見せて約束手形を現金化することを「呈示(ていじ)」といいます。呈示は約束手形に「記載されている期日を含む3営業日以内」に行わなくてはいけません。途中で銀行の休業日をはさむ場合は、休業日の分だけ日数は延長されます。
気をつけたいのが、自分自身が手形の受取人になる場合です。振出人の取引銀行と約束手形を持ち込んだ銀行が離れている場合、手形を郵送する日数も3営業日以内に含まれる点です。手形の取立をする時は、できるだけ早く銀行に行きましょう。
約束手形のメリットとデメリットと問題点
便利な約束手形ですが、メリットもデメリットもあります。それぞれの特性を理解して上手く利用すれば、会社経営に大いに役立ってくれることでしょう。
約束手形の3つのメリット
主なメリットは次の3つです。
- 資金繰りがコントロールできる
- 利息がかからない
- 社会的信用が増す
資金繰りがコントロールできる
約束手形の最大のメリットといえるのが、資金繰りを自社に有利にコントールできることです。手元に十分な資金がなくても、約束手形なら支払いを先延ばしにできます。
とくに建設業や製造業など、事業を回すための経費の支払いが先にある業種の場合は、手形取引を多く活用しています。約束手形の期日を入金予定日以降にすることで、代金の回収と支払いのタイムラグを調整できるのです。
約束手形を振り出して支払い期日を先延ばしにして、手元にある資金で別の商品を仕入れるなどビジネスの拡大も可能になります。
利息がかからない
銀行からお金を借りると、返済するまで利息を払い続けなければなりません。その点、約束手形を振り出しても利息はかかりません。支払い期日の延期をしても利息がかからないのは振出人にとって有利です。
社会的信用が増す
銀行で約束手形の交付してもらうためには、厳しい審査が必要です。審査をクリアした企業は社会的信用が増して、ビジネスが円滑になる可能性があります。
約束手形の2つのデメリット
約束手形はメリットばかりではありません。デメリットを理解しておくことは非常に重要です。
- 約束手形のデメリット手形が不渡りになると倒産のリスクがある
- 手形のジャンプで信用を失う
手形が不渡りになると倒産のリスクがある
約束手形を振り出す上で最も大きなリスクは不渡りを出してしまうことです。支払い期日になっても当座預金に手形の額面の金額を入金できなかった場合、その手形は不渡りになります。
1回不渡りを出すとすべての金融機関に通知されます。半年以内に2回目の不渡りを出すと、銀行取引停止処分となり当座預金取引や融資を2年間受けられなくなります。取引銀行とのやり取りができなくなると、他の銀行とも取引が事実上不可能になり、倒産と見なされてしまい企業としての信用は地に落ちてしまいます。
手形のジャンプで信用を失う
約束手形の期日までにお金を用意できなかった時に受取人に対して期日の延長をお願いして、新しい手形の振り出しを「手形のジャンプ」といいます。
受取人が手形のジャンプに応じてくれたとしても、信用を失うことになります。また、応じてくれないことや利息を上乗せして請求されることもあるのです。
約束手形を資金化する方法
約束手形を資金化する方法には次の4種類があります。
- 銀行取立
- 手形割引
- 手形貸付
- 裏書譲渡
銀行取立
銀行取立とは、企業から振り出された約束手形を期日以降に銀行に持っていき、銀行に振出人から現金を取り立ててもらう方法です。約束手形を受け取った銀行は、振出人の取引銀行と「手形交換所」で手形交換をします。
その後、振出人の当座預金口座から手形の金額が引き落としされ、受取人の銀行に送金。受取人の銀行が受取人の口座に入金して完了となります。期日を含む3営業日以内に取引銀行に対して呈示しなくてはいけない点はとくに注意しましょう。
手形割引
手形割引とは、約束手形に記載されている期日より前に手形を資金化できる仕組みです。手形の期日までに資金調達をしたい時に活用できます。ただし、手形の金額よりも少ない金額に「割引」されるのが特徴です。
取引銀行または民間の手形割引業者に手形を持ち込みんで手形割引依頼をすると、手形の振出人や手形割引依頼人に関する審査が行われます。これは手形が不渡りにならないようチェックするためです。審査通過後、取引銀行または手形割引業者が、手形の金額から手数料などを引いて手形割引依頼人にお金を支払います。
手形割引が行われても、手形の振出人は通常通り、期日になったら手形を割引した銀行または手形割引業者に手形の金額全額を支払います。
手形貸付
銀行取立や手形割引は、振り出された約束手形をそのまま資金化する方法ですが、手形貸付とは資金化したい企業が手形振出人になります。自社で振り出した約束手形を担保にして、取引銀行や手形貸付業者からお金を借りるのです。
まず取引銀行や手形貸付業者に手形貸付の依頼をすると「審査」が行われます。審査に通れば、支払い期日が記載された手形を振り出し、手形に記載されている金額から手数料が引かれた額を融資されます。
手形貸付で資金調達ができた後は、毎月返済をしていき、手形の期日までに完済しなくはなりません。
裏書譲渡
約束手形の受取人は、手形の裏に署名などをすることによって第三者に譲渡できます。これを裏書譲渡といいます。直接現金化はできませんが現金と同じように支払いに利用できます。裏書譲渡した場合、期日にお金を支払うのは、手形の振出人になりますので、わざわざ資金を用意して支払わなくてもいいのです。
約束手形の裏面には譲渡に必要な情報を記入する欄があります。
- 譲渡した日付
- 裏書人(譲渡人)の住所・社名・代表者名・押印
- 被裏書人(手形を受け取る人)の氏名
これらの情報を記載した上で譲渡を行ないます。
裏書譲渡した約束手形は1社にとどまらず、次々と流通することもあります。その場合、手形の裏面には上から順に署名が並んでいます。たとえば企業Aが振り出した約束手形を企業Bが裏書譲渡して企業Cへ、次に企業Cから企業Dへと譲渡ができるのです。
最終的に約束手形を受け取った企業Cが期日に取引銀行に手形を呈示して手続きは完了となります。裏書譲渡が複数人にわたっている場合、裏書の署名がきちんと連続しているかを確認してから受け取るようにしてください。
約束手形の基礎知識は有価証券や売掛金の理解にもつながる
商取引における決済方法として、今もなお欠かせない約束手形の仕組みや注意点を知っておくことは、有価証券や売掛金の理解につながります。取引の規模や種類によって、臨機応変に決済方法を変えて資金繰りを楽にすることも可能です。
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